作品情報 2019年中国映画 監督:ロウ・イエ 出演:コン・リー、マーク・チャオ、オダギリジョー 上映時間127分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2023年劇場鑑賞404本
【ストーリー】
1941年12月の上海・英仏租界。太平洋戦争直前で各国の諜報機関は日本が米英に戦争を起こすかどうかを探り合い、上海で決死の諜報戦が繰り広げられていた。そんなとき、香港の人気女優ユー・ジン(コン・リー)が上海へやってくる。表向きは新作舞台公演のためだが、彼の元夫のニイ(チャン・ソンウェン)はスパイ容疑で日本軍につかまっており、伝手を使って釈放させるのが目的だった。
新作舞台はジンの元カレで、今も思いを寄せるタン・ナー(マーク・チャオ)の演出。タンは彼女が危険に陥るのではないかと不安に思う。ところが、ジンはさらに裏の顔があった。フランスの諜報部員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に依頼され、日本軍諜報機関の古谷少佐(オダギリジョー)に近づいたのだ。実は古谷の行方不明の妻・美代子はジンに瓜二つだった…
【感想】
ロウ・イエ監督は「パープル・バタフライ」でも戦前の上海を舞台にしたスパイ映画を撮影しています。両作とも日本軍は悪役ですが、人間的な欠点をもった魅力的な人物が悪役であるというのが、韓国などの抗日映画とは比べ物にならないぐらいレベルを引き上げています。本作の古谷もエリート軍人でありながら、行方不明の妻を気遣う優しさもある。非常な諜報戦のなかではそれは弱さであるというのが、なんとも物悲しい。
古谷の護衛、梶原役に中島歩が起用されておりますが、極めて有能かつ残忍な軍人と描かれており、長身が軍服に良く似合う。そして、ダメな二枚目役が多い邦画と違い、信念を曲げずに古谷の護衛を務めていく様子が非常に印象的。古谷と違ってプライベートは描かれていない分、悪役としてもキャラがたっていますし、この数日後にみた韓国映画の「PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ」に出てくるような、格好つけてるけど無能な軍人とは大違いです。
もう一つ、韓国の抗日映画のダメなところは日本人役の発音がネイティブに聞こえないところ。「PHANTOM」はだいぶ頑張っていましたが、それでも「サタデー・フィクション」とは雲泥の差。脇役で酔っ払ってジンに絡む軍人といったモブまでがしっかりとした日本語を話しており、こういう細事を大事にするかで印象が違ってくると思いました。
序盤はどれが現実でどれが劇中かわかりづらい演出をしていることもあるし、登場人物も多いために関係を整理するのが大変。いかにももってまわったような描写も多かったのですが、オダジョーと中島歩が登場してから物語は一気に展開します。終盤までいっきにみせてくれました。過去にとらわれる男たちと強くたくましく前を観る女たちの対比がみごと。男と女というロウ・イエ監督の追ってきたテーマがここでもきれいに現れているのがたまりません。
全編モノクロで雨や夜のシーンをスタイリッシュにみせてくれるうえ、中国語、日本語、フランス語、英語が飛び交い、まさに魔都上海を再現してくれるような雰囲気はしびれます。アクションシーンもなかなか工夫しており、これまた「PHANTOM」と比べると、火薬量は少ないのに印象はこちらのほうが強い。映画は太平洋戦争の開戦日で終わりますが、登場人物たちがその後、どんな人生を歩んだのか考えてしまいます。
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