作品情報 2022年ドイツ、フランス、ベルギー映画 監督:キリアン・リートホーフ 出演:ピエール・ドゥラドンシャン、カメリア・ジョルダーナ、ゾエ・イオリオ 上映時間102分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2023年劇場鑑賞405本
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【ストーリー】
2015年11月のある晩、パリに住むジャーナリストのアントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)は、友人とライブに行く妻のエレーヌ(カメリア・ジョルダーナ)を見送り、幼い息子のメルヴィル(ゾエ・イオリオ)の世話をしていた。
ところが、その日イスラム教の過激派がパリで大規模テロを起こし、エレーヌも犠牲になってしまう。失意のどん底だったアントワーヌはフェイスブックに「ぼくは君たちを憎まないことにした」と投稿。憎しみではなくメルヴィルと幸せになることでテロに打ち勝つと宣言した。彼の投稿は瞬く間に大きな反響を呼んだのだが…
【感想】
序盤、エレーヌとのありふれた幸せな一日を描写したあと、テロ事件が起きます。犯行映像は一切見せず、当日のアントワーヌ同様、混乱したテレビの報道や、エレーヌや警察につながらない電話を必死にかけ、病院に負傷者として搬送していないかかけめぐるアントワーヌの慌てた様子は、実際に当日パリで多くの人が体験したことでしょう。そして、テロに限らず大規模な事故や災害に見舞われたら一人の人間のできることのなんと小さなことか。
不器用ながらメルヴィルを必死に育てるアントワーヌ。フェイスブックに一連の「ぼ
くは君たちを憎まないことにした」と書いたのは、自分の気持ちを落ち着け、彼女のいない人生に絶望しないために無意識にでた文書なのかもしれません。テロの犠牲者から事件後まもなくでた文書は大きな感動を呼んだのも事実です。
ただ、それでアントワーヌの苦悩が終わったわけでありません。友人や知人からは
親切の押し売りをされたり、テレビにでて調子に乗ってるんじゃないと陰口を言われたり。テロ犠牲者の遺族という立場もあり、おおぴらに反論できずにストレスがたまっていきます。また、葬儀の準備など親戚たちが淡々と進めていることにも、彼女が死んだことを納得したくないアントワーヌにとってはいらだちのタネ。
何より、まだ幼く「死」を理解できないメルヴィルが、母親の不在に泣き叫びながらアントワーヌに文句をいう場面は、双方の心情が伝わってくるだけにみていて苦しくなりそう。人間は生きているだけで、他人を勇気づけたり、支えになったりするんだということを痛感させられます。
メディアやSNSの功罪、テロの脅威などの社会的な課題に取り組みつつ、当事者の実話をベースにしているだけに、心境面にクローズアップしているのが特徴。もし、自分の家族が突然被害に遭ったら、彼のように生きていけるのか深く考えさせられました。
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