作品情報 2023年日本映画アニメ 監督:古賀豪 声の出演:関俊彦、木内秀信、種ア敦美 上映時間104分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:川崎チネチッタ 2023年劇場鑑賞411本
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【ストーリー】
昭和31年、人里離れた山中にある哭倉村の屋敷で、政財界に隠然とした力をふるう龍賀製薬の当主、龍賀時貞(声・白鳥哲)が亡くなる。後継者は長女乙米(沢海陽子)の夫で龍賀製薬社長の克典(山路和弘)と、哭倉村にこもっており、村の伝統行事を担当していた長男の時磨(飛田展男)に絞られる。
東京で龍賀製薬担当の血液銀行行員の水木(木内秀信)は克典を当主にするのを助けろとの社名を受けて、外部の人間は来ない哭倉村へ赴く。だが、遺言は意外な内容で一族は混乱。さらに、一族のものが次々と惨殺されていく。がけ崩れで警察も村にたどりつけないなか、折から村にぼさっとした中年男(関俊彦)が、行方不明の妻(沢城みゆき)を探しにきたと現れ、村人たちにリンチされそうになったところを水木が止める。名乗らない男を水木は「ゲゲ郎」と勝手に呼び、村人からの疑念をはらすべく2人で事件を捜査する。だが、村には恐ろしい妖怪「狂骨」の伝説があり…。
【感想】
鬼太郎は冒頭とラストの計数分しかでてきません。物語の大部分は昭和31年の哭倉村の惨劇になっています。なお、タイトルにある鬼太郎誕生は、エンドロールで水木しげる風の紙芝居のような感じで流れるので、本編が終わっても帰らないように。
哭倉村では2人で協力して殺人事件の謎を探るとともに、ゲゲ郎の妻の行方、龍賀一族ひいては村の秘密をも調べていきます。最初がゲゲ郎を信用していなくてバカにしていた水木が、次第に命がけの相棒になっていく様子は胸熱。殺人事件の犯人も村の秘密の真相も非常に哀しく、欲深い人間の愚かさ、ひどさを浮き彫りにしていて、それから70年近くたつのに何ら変わらない社会に絶望したくなります。
また、ゲゲ郎と妻の深い愛情が示される一方、龍賀一族で唯一常識人といっていい克典の娘でうら若い少女の沙代(種ア敦美)と水木の恋愛も大きな柱になっています。因縁で山深い村に閉じ込められた沙代が、東京から来た年上の青年へのあこがれは容易に想像がつきます。最初は取引先の社長の娘と欲徳でしかみていなかった水木が、彼女の純真な気持ちに触れるうちに人間らしさを取り戻していくというラブストーリーもいい。もう一人、沙代の従兄弟で村長の幼い息子の時弥(小林由美子)も沙代と同様に村に囚われており、彼が日本の未来は幸せになるのかという根源的な問いを突きつけられた水木とげげ郎のやり取りも重みがあります。
さらに、水木しげるが太平洋戦争中は南方戦線に派遣されて、九死に一生を得て戦争や軍の幹部に激しい怒りを抱いていたのは周知のことですけど、本作の水木も同様の体験をしており、それゆえに人間が信じられずに、他人に踏みつけられるのではなく、他人を踏みつけるような権力やカネを求めています。そんな彼がゲゲ郎、沙代と出会ったというのはなんとも運命といえましょう。
おりから、京極夏彦の新刊ミステリー「鵺の碑」が発行され話題となっているなか、「狂骨」も京極の「狂骨の夢」(1995年)でメジャーになった妖怪。水木と京極の親交もしられており、水木しげる生誕100周年の本作に登場するのにふさわしい妖怪でした。
キャラデザは水木の画風をうまく今風にアレンジしており、昭和31年のレトロな東京の風景、自然豊かな哭倉村の風景など美しい美術も堪能できます。アクションシーンも迫力があるし、クライマックスの幻想的な戦いは、芸術的な絵画を観ているといっても過言ではありません。声優もベテラン実力派を中心に集められており、まさにアニメーションは総合芸術と実感させられる作品でした。なお、ちょっと出てきた村の子供たちは親の因果が子に祟りということなのかな。大人はやはり子どものために正しい人生を生きなければと痛感しました。
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