2023年12月22日

アダミアニ 祈りの谷

 チェチェン紛争で多くの人が避難してきたジョージア東部のパンキア渓谷。多くの若者がISISへ参加したことで、テロリストの巣窟と非難されたこの地方の住民が懸命に生きる姿を描いたドキュメンタリー。エンドクレジットまで気づかなかったのですが、なんと日本の製作なんですね。


 作品情報 2021年日本映画ドキュメンタリー 監督:竹岡寛俊 上映時間120分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい  2023年劇場鑑賞446本



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 【ストーリー、感想】
 パンキア渓谷は200年前にチェチェンから移住してきたキスト民族が暮らしている。チェチェン紛争から逃れてきた人々は、同じ先祖の彼らを頼ってきた。ジョージアの他の地域はキリスト教だが、パンキアはイスラム教。少数民族ということもあり、孤立しがちだった。


 息子2人がISISに参加して死亡した女性レイラは、このような母親たちの苦しみをなくすためには経済的な自立と、他地域からの偏見をなくすことが重要と考え、観光協会を設立。ジョージアの他地域やヨーロッパからの観光客を招き、パンキアの豊かな自然を体験してもらい、もう平和な田園地帯であるということをアピールしようと計画する。


 同じような女性たちやポーランドから村へやってきた女性バルバラと力を合わせて計画はスタート。ぶっきらぼうの大男だがチェチェン紛争の生き残りの兵士だが今は平和に暮らすアボをガイドに起用し、徐々に旅行客も増えていく。ジョージアとパンキアの若者の交流キャンプも成功した。だが、ある日ジョージアの警察がテロ容疑で就寝中のパンキアの青年を射殺。パンキア一帯に抗議運動が広まり、ジョージア人は追い出せとの機運がたかまってしまい…


 いつになっても亡くならない戦争。残された遺族は悲しみに暮れながら生活をしなければなりません。にもかかわらず、新しい差別、紛争の火種になっているのは中東やウクライナのように現在進行中の難題です。レイラ、バルバラをはじめとする女性の前へ歩こうという動きはそんな厳しい世の中に咲いた一輪の花といえましょう。男は戦争で死ねば英雄になる、(女が)生きて生活するより死ぬ方が簡単だと思うという女性の言葉は重かった。


 ただ、青年が殺された事件では観光協会のメンバーの意見も割れます。人間の怒りは優先されるのか、それとも和解、許しが必要なのか。理屈ではわかりますけど本作に出てくる実際に生きている人たちの感情をみると、答えがでないままぐるぐるまわります。


 主要登場人物の中の唯一の男性のアボが、平和に生きようと決めたにもかかわらず、周囲の状況でシリアでの戦闘に参加しなかったことを後悔する様子は人間の業の深さを感じさせます。にこやかにガイドしている彼が暇さえあれば筋トレしているのも、なんとも考えさせられます。


 竹岡監督は大阪生まれですが、2010年からジョージアでの取材を続けているそう。それだけ深いところで取材でき、現地の人の心にも触れられるのだろうなとうらやましく思いました。
posted by 映画好きパパ at 18:00 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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