作品情報 2023年アメリカ映画ドキュメンタリー 監督:マドレーヌ・ギャヴィン 上映時間115分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズシャンテ 2024年劇場鑑賞32本
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【ストーリー、感想】
コロナ前の2019年、ソウルで脱北者の支援活動のリーダー、キム牧師にブローカーから緊急の連絡が入る。80歳の老女、娘夫婦、幼い孫2人が北朝鮮から脱出したものの、国境で立ち往生してこのままでは中国の警察につかまり強制送還、死刑になるというのだ。キム牧師は至急、先に脱北した老女の家族や各国のブローカーと協力し、決死の逃亡をさせようとする…
脱北者を描いた映画は「クロッシング」など韓国映画には何本もあります。しかし、これはドキュメンタリー。脱北する家族たち自らが撮影した写真や北朝鮮のブローカー、国境付近に住む中国の農民らが撮影した動画を組み合わせています。再現映像なしというからとにかく驚き。
アメリカ映画なので、北朝鮮の状況については基本的な知識から説明していますが、これがまたまたえぐい。例えば1990年代に飢饉になったときに路上に飢え死にした人がごろごろ倒れている様子とか、脱北でつかまった人が警察に拷問を受けている様子とか、ここに移っている人はフィクションでなくて本当に死んでいると思うとぞっとします。それが日本の隣国なんですからね。
幼いころからマスゲームで徹底的に特訓され、アメリカ人は悪魔だと教わる北朝鮮の教育。自分のところがユートピアで、他国は地獄と信じ切っています。脱北するおばあさんや幼い子供たちが、自分たちが殺されそうだから逃げ出したのに「金正恩様は立派な指導者で、国民がだめだから私たちは飢えている」と真剣な表情で騙っているのは国家ぐるみの洗脳の恐ろしさを実感しました。他の独裁国家の多くがそうですし、日本も戦時中はそうだったわけだと考えると恐ろしさもまします。
昔と違って脱北の取り締まりは厳しくなり、北朝鮮の国境警備兵は射殺や逮捕をすれば褒美をもらえます。中国政府も北朝鮮に協力しており、国境付近の住民に密告すれば半年分の収入を報酬として与えるとか。また、脱北させるブローカーもとにかくカネが優先で、若ければ厳しい労働や売春宿に売り飛ばすそう。今回の脱北者が老人、中年夫婦、幼い子供だから売り飛ばされなかっただけという現実も厳しい。
さらに、中国から韓国に入るのに、ベトナム、ラオス、タイと陸路を経由しなければなりません。ベトナムやラオスも北朝鮮と親しいため、タイに着くまではとにかく命がけ。老人や子供連れなのに一晩かけてジャングルを歩いたり、狭い小屋に詰め込まれるなど大変ですし、警察や軍人にびくびくしなければならない。言葉は適切でないかもしれませんが、フィクション映画よりもドキドキしました。
また、キム牧師はこれまで1000人もの脱北者を支援していますが、失敗して殺された人もいるわけで、そうしたシビアな現実もしっかりと映し出されています。日本人にとって必見といえましょう。
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