作品情報 2022年アメリカ映画 監督:ジェシー・アイゼンバーグ 出演:ジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード、アリーシャ・ボー 上映時間88分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2024年劇場鑑賞34本
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【ストーリー】
DVにあった女性向けのシェルターを運営しているエヴリン(ジュリアン・ムーア)は、自分のフェミニズム的、リベラル的考えを押し付けて、高校生の息子ジギー(フィン・ウォルフハード)から煙たがられている。
自作の音楽をネットで配信して小遣いを稼いでいるジギーからすれば、儲けにならないシェルターなどばかばかしい。ところが、ジギーが好きになったクラスメイト、ライラ(アリーシャ・ボー)は環境問題など政治意識が高く、ジギーは自分の知識の無さが恥ずかしくなった。一方、エヴリンは母子でシェルターに避難してきた高校生カイル(ビリー・ブリック)の礼儀正しさを気に入り、何かと面倒をみるようになる。
【感想】
思春期の息子が自分の考えを押し付ける母親に反発するというのは洋の東西を問わず同じようなもの。興味深いのはこの一家の父親ロジャー(ジェイ・O・サンダース)の影が薄いこと。時折二人の仲を仲裁しようとしますが、二人から反発をくらって黙ってしまう。また、退職したのか専業主夫を選んだのかわからないけれど、家で家事をしていることが多い。一昔前の映画だったら、男女の役割が逆転しているようです。
エヴリンはフェミニストであり、家父長制に反発していたのでしょう。その彼女が家長のごとくふるまっているのがおかしい。とはいえ、自分でも反省している部分があるのでしょうか、ジギーと口論したあとはストレスでイライラ。最初は通勤中の自動車でクラシックを大音量で聞いていましたが、そのうちカイルを自分の理想の息子のように扱いだします。
一方、ジギーも他人のいうことを聞かないで自分の考えを押し付けるところは母親と一緒。でもエヴリンの押しつけが曲がりなりにもきちんとした考えをもとにしているのに、ジギーのいうことはいい加減でその場しのぎ。最初はそれほど気にならなかったライラも、彼が形だけで、社会問題はもとより自分の本質を理解しようとしなかったことに切れます。まさに似たもの親子が同じような失敗をするわけです。
これまた面白かったのが、エヴリンがカイルに無理やり進学を勧めること。カイルは自動車修理工としての腕があり、高校卒業後はそちらにつきたいのに、社会福祉系の大学の奨学金をとらせようとします。リベラルが口ではきれいごとをいっても、ブルーワーカ―を下にみていることがよくわかる。一方、ジギーは金儲けできる人が偉いという発想にそまっており、これは母親と真逆のようで似ているところもある。
特に大きな事件があるわけでありませんが、不器用な親子の衝突と和解のプロセスが微笑ましいとともに、時折共感性羞恥心で見ているこちらが思わず赤面してしまうことも。他人のふりみて我がこと直せという言葉がしっくりしました。アイゼンバーグが息子役で登場して名を広げたのは、家族の亀裂を描いた「イカとクジラ」でした。その彼が、こうした作品を脚本、監督するというのもしみじみしてしまいます。
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