作品情報 2023年米国映画 監督:クレイグ・ギレスピー 出演:ポール・ダノ、アメリカ・フェレーラ、セス・ローゲン 上映時間105分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2024年劇場鑑賞48本
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【ストーリー】
キース(ポール・ダノ)は平凡な会社員の一方、ネットで株情報の動画を「ローリング・キティ」の名前で配信。赤鉢巻に猫のTシャツがトレードマークで人気を博していた。彼は業績が低迷しているビデオゲーム販売店「ゲームストップ」の株が、大手ヘッジファンドの空売りで株価が低迷していることはおかしいと指摘。会社の業績を分析して、全財産5万ドルで購入したことをライブ動画で報告する。
キースの動画を観たごく普通の投資家たちが賛同し、次々と購入。株価は上昇していった。だが大手ヘッジファンドの社長ケイブ(セス・ローゲン)は小口の個人投資家資金をダム・マネー(愚かなカネ)とバカにして、空売りを強める。キースが予期せぬうちに、大衆対大金持ちのヘッジファンドの対決として盛り上がり、何百万人もの個人投資家がキースを応援していくが、驚いたヘッジファンド側は想定外の汚い手で個人投資家をつぶそうとして…
【感想】
虐げられた名もない人たちが、ウォール街で暴利をむさぼっている権力者をやっつけるというのは痛快ですが、ギレスピー監督は予告と違って抑えた感じの演出をとっており、そのことがかえって迫真性を増します。
ゲームストップがあれだけ盛り上がった背景にはコロナ禍での格差拡大があります。個人投資家の一人でシングルマザーのジェニー(アメリカ・フェレーラ)は看護師で死ぬほど忙しいのに生活は苦しく、だれも助けてくれない。奨学金に苦しむ女子大生のハーモニー(他リア・ライダー)は、父親の会社がファンドにつぶされて貧乏に陥りました。一方でケイブは自分の家のテニスコートを作るために地上げを行い、自宅に何人もの執事、メイドをはべせてフルコースの食事を食べるなど贅沢三昧。象徴的なのはジェニーや、ゲームストップの店員のマルコス(アンソニー・ラモス)は、上司からマスクをしろと怒られるのに、ケイブたち金持ちは行動制限など一切関係なく楽しんでいること。金銭的な面だけでなく、生活そのものにも格差が直撃しています。大衆にとってウォール街の金持ちはまさに悪役そのものでした。
さらに、コロナ禍の外出制限で動画の視聴時間が増えたということもキースにプラスになります。動画のコメントには誹謗中傷もありますが、多くの視聴者のウォール街の怒りが書き込まれ、平凡な会社員だったキースが英雄のようにまつりあげられていく。今回はSNSのメリットがいかされたわけですが、SNS社会の怖さと武器としての強さも実感できました。
もう一つ、アメリカでは投資が当たり前になっていることも大きい。冒頭、キースが友人とカフェでゲームストップ株の話をしていると、ウェイトレスが話に加わってきます。ジェニーやマルコスという、いわば貧乏人も投資で人生を大逆転しようと普通に考えている。劇中の重要人物の一人に証券アプリを開発して無料で株取引をできるようにしたロビンフッド社のテネフCEO(セバスチャン・スタン)が出てきますが、コロナでの給付金もあっていっきに投資が拡大したことがわかります。
株価がどんどん上がっていく中、利益確定をするべきかどうかドキドキするなんていうことは自分が投資しているかのよう。また、登場人物が多いため、キャラクターはそれほど深掘りされていませんが、キースを支えた妻のキャロライン(シェイリーン・ウッドリ)をはじめ、多くの登場人物には家族がおり、家族のきずなもしっかりとえがかれているところがすごい。
また、アメリカ映画らしいのですが、キースはもちろんケイブやテネフといったウォール街の大物が実名で登場。イーロン・マスクも声だけ登場します。さらに、実際のニュース映像もふんだんに使用しており、邦画では絶対に実名ではできないなと思いながら観ていました。エンディングクレジットで実際のキースやケイブが証言している映像がでてきますけど、セリフを忠実に再現しているのにもびっくり。大手ヘッジファンドがロビンフッドに圧力をかけたことが強く示唆しているけど、こういうきわどい話もよくできるなあ。
ポール・ダノはこういうオタク風の主役の第一人者で安定した演技。一方、悪役を演じるセス・ローゲンは超生真面目でエリートになりきる一方、彼もまた家族思いであることを描いており、深みのあるキャラクターになっていました。超大物スターは起用していないけれど、主役級の俳優たちによる群像劇というのも見どころです。なお、脚本家コンビは元ウォールストリートジャーナルの記者だそうで、株取引に関するセリフなどは本当にリアルでした。BGMも実に見事。
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