2024年02月18日

夜明けのすべて

 メンタルの問題で生きづらくなっている男女の日常を寄り添うような温かい視点で描いた作品。松村北斗と上白石萌音はパブリックイメージを一新し、代表作になったのでは。さすが三宅唱監督です。


 作品情報 2023年日本映画 監督:三宅唱 出演:松村北斗、上白石萌音、光石研 上映時間119分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマみなとみらい  2024年劇場鑑賞54本




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 【ストーリー】
 藤沢美紗(上白石萌音)は生理の前にイライラが抑えられなくなるPMS(月経前症候群)で、新卒で入った大企業で問題を起こし、今は小さな教材会社・栗田科学で働いている。後輩の山添孝俊(松村北斗)はパニック障害でやはり大企業にいられなくなり、上司の辻本(渋川清彦)が栗田社長(光石研)と知り合いだったために栗田科学に転職してきた。


 普段は腰の低い美紗が、パニック障害の影響もあってやる気のない孝俊に突然切れて怒鳴り散らす。最初はとまどった孝俊だが、次第に二人は互いのことを思いやるようになる。栗田社長をはじめ、会社の仲間たちは彼らをそっと見守る。


 【感想】
 男女に友情が成立かどうかなんてしょうもない論議があります。本作の素晴らしさは2人をはじめ主要登場人物が男女がどうのというよりも、人としてどういうあり方であり、困った人、苦しんでいる人のことを思いやるのは当然、という姿勢を打ちだしていることです。


 例えば同じ障害を持つ若い男女を描いた「サイレントラブ」では、浜辺美波と山田涼介のいちゃいちゃが終始描かれ、障害自体は恋愛を盛り上げるための材料でしかありませんでした。これに対して本作は、すぐに恋愛に陥る映画やドラマのアンチテーゼともいうべき、人としての生き方をきっちりと描いています。これだけ世知辛い世の中、ただでさえ生きることが大切なのに、“普通”でないメンタルだったら余計にいきづらいでしょう。でもそもそも普通ってなんなのかということをひたすら考えさせられました。


 そう書くと小難しい作品に思えますが、2人の俳優の天性の素質なのか、穏やかかつ時折天然ぽいボケにクスクス笑えることもあります。さらに、劇的なできごとはほとんど起きず、日常を積み重ねているだけなのに決して飽きさせない三宅監督の演出力はたいしたもの。まさに、陽だまりでぽかぽかするような観ているこちらの心も温かくなってきます。


 何より2人が前向きに生きているのが心地よい。もちろん、PMSやパニック障害で周囲に迷惑を書けた後は落ち込みます。それでも生きているだけで人間は素晴らしいということを、セリフにたよらず存在でみせているのがすごい。自分が失敗しても相手のことをいたわる姿がたまりません。


 また、僕はまったく知らなかったのだけど移動式プラネタリウムというのがあり、教材会社でそれを活用しているというエピソードが良かった。世の中からすれば小学校でのプラネタリウム発表会なんて些細なできごとだけど、子供たちのために懸命に取り組む2人の姿。そして栗田社長の悲しい過去と絡めた展開は原作が瀬尾まいこの小説ということもあるのだろうけど、うまい脚本でした。


 脇役では光石、久保田磨希ら会社の同僚役のベテラン陣はさすが。特筆すべきは孝俊の恋人でバリキャリ役の芋生悠。彼のことを思っている善人なのにパニック障害のせいで距離がどんどん離れていく焦りがなんとも切ない。でも 単純に全員がハッピーで理解ある人なんてきれいごとで終わらないから深みを感じるのですよね。東京のありふれた街並みがこれほど魅力的にうつる映像のマジックもすごかった。
posted by 映画好きパパ at 07:16 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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