作品情報 2023年アメリカ映画 監督:ショーン・ダーキン 出演:ザック・エフロン、ホルト・マッキャラニー、リリー・ジェームズ 上映時間130分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2024年劇場鑑賞127本
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【ストーリー】
1970年代、“鉄の爪”の異名を持つレスラー、フリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)は、世界チャンピオンにあと一歩で手が届かなかった悔しさから、息子のケビン(ザック・エフロン)、ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、デヴィッド(ハリス・ディキンソン)、マイク(スタンリー・シモンズ)を徹底的なスパルタ教育で一流のレスラーに育て上げた。
練習の成果があり、ケビンはテキサス州のチャンピオンに、そして、デヴィッドは世界戦の挑戦権を獲得。ケリーはモスクワオリンピックのレスリング代表に選ばれた。ケビンはパム(リリー・ジェームズ)という恋人もでき、一家の未来は明るいようにみえたのだが…。
【感想】
プロレスのことは疎いのでフォン・エリック一家のことも知りませんでしたが、当時、日本での試合も何度もしており僕と同年代のプロレスファンは熱く語ってくれます。映画ではザック・エフロンが本物のプロレスラーかとみまがうばかりの肉体改造で迫力ある試合シーンがいくつもありますけど、それよりも悲劇としての側面が大きかった。なお、基本的には史実を反映していますが、年の離れた弟のクリスは登場しません。
ケビンは誰よりも努力家です。しかし、マイクパフォーマンスやインタビューでの当意即妙な受け答えが苦手。チャンピオンとの試合もうまくいかず、挑戦権を弟のデヴィッドに奪われてしまいます。くやしさを隠して弟に協力するケビンの複雑な心理が丹念に描かれます。
さらに、絶対君主的な父親に息子たちは「Yes!Sir」をつけて返事するなど、家父長制の権化ともいえるフォン・エリック家。母のドリス(モーラ・ティアニー)はそんな父からモラハラをうけてきたため、宗教に逃げているのではないかという描写が描かれます。そのうえ、一家の長男のジャックジュニアは幼いころに事故死しており、それが家族に暗い影を落とします。
弟たちは試合には勝つものの、父親からのプレッシャーで次第に身も心もぼろぼろになっていきます。ケビンは何とか弟たちを救おうとするものの、ほんの些細なきっかけで次々と事態は悪化していきます。また、プロレス団体を経営するエリックのやり方も次第に時代遅れになってきました。しかし、息子のいうことには耳を傾けません。このままでは悲劇が待っていることを察知したケビンは何とかして事態を改善しようとするのですが、空回りばかり。頂点からの転落は簡単で、あのときの選択を間違えなければここまでひどくならなかったのに、という事態が続いていきます。
そんなケビンを支えていたパムも、ケビンが父や弟のことばかりで自分に対して向き合おうとしないことに苛立ちを覚えてきます。ケビンは一家のなかであるいみ一番バランス感覚がとれていましたが、自分が生きている兄弟のなかで一番年上だという責任感と、どうにもならない現実の板挟みになり、それがパムや自分の幼い子供にはねかえっていきます。このへんもなんともリアルで、ものがなしい。
エンディングロールで本物のケビンの現在の写真が映りますけれど、なんとも言えない気持ちになりました。ザック・エフロンは若手のイケメンスターから、どんどん複雑な役に挑戦しており、ケビンという悲劇の人物をこれほどしっかり体現しているのは驚きです。リリ・ジェームズの美しさが、悲しみを若干中和してくれていました。
ところで、五反田にリベラというステーキ屋があり、来日したプロレスラーがひいきにするプロレスファンの聖地として知られています。この映画を観て久々に食べに行きました。大勢の写真のなかにケリーの写真があり、若かりし頃のリベラのご主人とにこやかに映っていました。これをみて再びエモい気持ちになりました。
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