2024年04月28日

マンティコア 怪物

 デビュー作の前作「マジカル・ガール」で日本の魔法少女アニメにあこがれるスペインの少女の悲劇を描き注目されたカルロス・ベルムト監督の新作。また人間心理の嫌な部分、不運の玉突きなどを覚悟していったら8割ぐらいは淡々としたオタクの日常生活。しかし、ラスト2割が怒涛の展開で、本当にベルムト作品は鬱な気分になるなとしみじみ。


 作品情報 2023年スペイン、エストニア映画 監督:カルロス・ベルムト 出演:ナチョ・サンチェス、ソエ・ステイン、アルバロ・サンス・ロドリゲス 上映時間116分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい  2024年劇場鑑賞143本




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 【ストーリー】
 ゲーム会社でモンスターデザインを担当しているCGクリエイターのフリアン(ナチョ・サンチェス)は内向的な性格で、会社のパーティーなどでも居心地の悪さを感じていたが、同僚のサンドラ(アイツィベル・ガルメンディア)から、ディアナ(ソエ・ステイン)という美術大生を紹介され、次第に惹かれあうようになる。


 ある日、在宅勤務をしていたフリアンは、マンションの同じ階の部屋で火事が起きているのを発見。部屋に一人でいた幼い少年クリステャン(アルバロ・サンス・ロドリゲス)を助け出す。だが、その際に煙をすったせいか、それ以来、パニック障害に襲われるようになり…。


 【感想】
 マンティコアとはライオンの体と人間の顔を持ち、人を襲って食べるといわれる伝説の生物。フリアンだけでなく多くの人の心の中に、このような怪物が巣くっているという感じでしょうか。途中までとことん、善良で世間からつまはじきにある側にいたフリアンのある行動が、彼の暗部をえぐりだすという嫌ミスです。


 しかも、日本人の僕からすると、えっ、この程度のことなのにという気もしてなりません。このへんが欧米と日本の性癖への感覚の違いなんでしょうね。一方で、監視社会や同調体質の恐さというのは日本もスペインも変わらない気がしました。フリアンが本人も気づかないうちにどんどん追い詰められていくのが怖い。


 そこまではフリアンの孤独、社会からの疎外感がたっぷりえがかれるとともに、介護のために同世代のような青春を謳歌できないディアナの孤独と共鳴することがストレートに伝わってくる様子を非常に丁寧に、長すぎるほど描いていました。そこまで積み上げてきたものが、たった1回のことであっという間に崩れ去るのは、人間の運命のはかなさをかみしめられます。さらにディアナの最後の選択も非常に重たい。彼女の未来はどうなるのか暗澹たる気分です。


 スペイン人というと陽気なイメージがあるだけに、フリアンのような陰キャは生きづらかったのかという気がしてなりません。このなんともいえないジトッとした陰鬱な雰囲気が続くのはベルムト監督の特徴なんでしょう。日本好きな監督らしく、唐突にストーリーと関係ない北海道の混浴温泉の話が入ってきたのには笑えましたが。
posted by 映画好きパパ at 07:05 | Comment(2) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
スペインは学生時代の卒業旅行で行ったきりですが、電車には普通にスリがいるし(気づいたらバッグのファスナーが開いていた、観光ガイド通り一番上にタオルを敷き詰めていたから何も取られずに済みましたが)、観光スポットには必ず白人の少年少女の物乞いが大勢いるし(取り囲んで署名と募金を募るやつです、抜け出すの大変)、どことなしにジメッとした感じはあったと覚えています。

それでも、どこか「自分は白人」という変なプライドが見え隠れしたり。

こういう映画とも、意外と親和性高いのかもしれません。
Posted by こねこね at 2024年04月28日 10:28
コメントありがとうございます。
スペインはいったことがないのですが、ウディ・アレン映画のように
明るく情熱的な印象がありました。
治安が悪いというのはその通りなんでしょうね。
そういうスペインの裏側がこの映画で観られた気がします
Posted by 映画好きパパ at 2024年04月28日 23:23
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