2024年05月23日

無名

 抗日映画は中国映画の方が韓国映画よりもスタイリッシュで、渋い作品が多い。本作もその典型で、時系列をシャッフルしつつ陰鬱な雰囲気が続くのがたまりません。映像美とアクションを堪能できます。ただ、当時の歴史知識が最低限でもないと難しいでしょう


 作品情報 2023年中国映画 監督:チェン・アー 出演:トニー・レオン、ワン・イーボー、森博之 上映時間131分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿  2024年劇場鑑賞178本




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 【ストーリー】
 日中戦争の時代の上海。日本軍、日本の傀儡の汪兆銘政権、共産党、国民党の4つの派閥が暗闘を繰り広げていた。汪兆銘政権の諜報部主任フー(トニー・レオン)と部下のイエ(ワン・イーボー)は日本の諜報機関のトップ、渡部(森博之)と協力して、治安維持に当たっていた。


 一方、共産党スパイのチェン(ジョウ・シュン)はジャン(ホワン・レイ)という男と偽装夫婦で上海にもぐりこんだ。一方、イエの婚約者のファン(チャン・ジンイー)は反日活動を強め…


 【感想】
 説明セリフが一切なく、だれがどこに所属しているかは渡部を除いてはわかるまで時間がかかりました。さらに、二重スパイもうようよ。登場人物の名前も渡部なんか映画を鑑賞後、公式サイトをチェックして初めて知ったほど。そのうえ、時系列が入り組んでいて、序盤に説明なしでいくつかのシーンがあるのだけど、実はそれが後半で重要なシーンだったりします。


 それでも、よくわからないけどゾクゾクするような雰囲気にのまれていきます。今の歴史では日本が敗北、共産党が勝利するのを知っているわけですが、当事者たちはそんなことを知らずに、命がけで戦っているわけです。それも戦争と違って情報の奪い合い、拷問、暗殺などの裏のやり方。最後までだれがどうなるのかはらはらしましたし、ある意味、中国映画だから仕方がないと思える部分(共産党バンザイ!)もそれほど色濃くなかったのが楽しめました。


 日本軍が現地住民を殺害する様子は目をそむけたくなるようですが、その後に手を汚したばかりの兵士たちが和気あいあいと食事をしているシーンをしっかりいれ、ごく普通の庶民が戦争で狂っていく様子をきっちり描いているのがすごい。ほとんどの戦争映画では相手の人間らしさは排除しないで、ゲームのコマのようにしか描いてませんものね。また、本来、最大の悪役たる渡部も人間的に深みがあり、日本軍の敗北を見据えているところもあり、これまた味わい深い。ロウ・イエ監督の「サタデー・フィクション」もそうでしたが、日本軍は日本軍なりの考えがあるわけです。こういう複層的な描き方は好みですし、その結果、日本軍がやられたとしても、仕方がないなと観てしまいます。


 女性陣もスパイや政治とは離れられないわけで、イエやチェンのエピソードには若干ロマンスっぽい部分を入れています。戦争が引き裂く悲劇というのはスパイも一緒。ただ、それだけにクライマックスの唐突なつながりはちょっとマイナスでしたが。そもそも、一番の見せ場も冷静に考えたら必要だったのかと突っ込みたくなります。


 舞台装置も最高。生きたエビの料理が真っ赤になるシーンとか、返り血を浴びながら平然と煙草をくゆらすとか素敵すぎる。暗い映像が多い一方、当時の華やかなカフェや料亭のモダンぽさもでており、ファッションも黒を基調としたスパイたちのスーツにしびれてしまいます。


 中華のオールスター的な作品でもあり、トニー・レオンはさすがの渋さ。若手でブレイク中のワン・イーボーは、普段はイケメンですが憎々しげな表情も実に似合います。このほか、エリック・ワン、ダー・ポンらの人気俳優が脇にいるのだから、中国映画ファンにはたまらないでしょう。森は中国在住の日本人俳優。ただ、渡部とイエの日本語会話など、日本語セリフがちょっと聞き取りずらいところがあり、日本語にも字幕をつければいいのにと思ってしまいました。
posted by 映画好きパパ at 06:09 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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