2024年08月04日

大いなる不在

 遠隔地にいる認知症の親をどうするのか。シビアなテーマで途中まではすごく良かったのですが、ラストの唐突な家族愛挿入でずっこけました。制作側に認知症の介護経験者はいないのかなあ。


 作品情報 2023年日本映画 監督:近浦啓 出演:森山未來、真木よう子、藤竜也 上映時間133分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:テアトル新宿  2024年劇場鑑賞269本



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 【ストーリー】
 東京で俳優として活動している卓(森山未來)は、九州にいる父の陽二(藤竜也)が認知症でトラブルを起こして施設に収容されたとの連絡を受け、妻の夕希(真木よう子)と九州に行く。卓と陽二は不仲で、実家にはめったに帰っておらず認知症が進んでるとは知らなかったのだ。


 卓は陽二の後妻の直美(原日出子)に連絡を取ろうとするが行方が分からない。陽二に直美のことを聞くと「自殺した」「家出した」などいうことがどんどん違ってくる。いったい何が起こったのか、卓は頭を抱える。


 【感想】
 親と疎遠では、元気な親の姿しか思いつかずいきなり認知症が進んでいたらショックを受けるでしょう。劇中では現在の卓たちの姿と、少し過去に戻って認知症が進行する陽二と介護に苦しむ直美の場面を行き来します。陽二は認知症あるあるというか、いきなり症状が進行するのでなく、頭がはっきりしているときとそうでないときのまだらで進み、自分ができないことに焦って、怒りっぽくなるという、きちんとした姿が良く描かれているなと思いました。さらに、現役時代は大学教授だっただけに、そのころの矍鑠とした姿との対比もお見事。


 また、家事は一切直美任せという、昭和の九州男児といえる卓は普段は丁寧な言葉遣いですが、認知症でタガが外れると怒鳴りまくります。直美がよく耐えられるなと思いつつ、自分の両親も父親が家事を何もしていなかったのを思い出し、夫婦関係というのは時代とともに変わっていくのですね。


 本当は離れた親のことをもっと気遣った方がいいのですけど、卓が陽二と不仲なのにはちゃんとした理由があり、こまめに面倒をみろとは言い難い。それゆえに、自分の知らない間の出来事が少しずつわかっていくミステリー仕立ての脚本はうまいなと思いました。また、コロナが次第に広がり、施設での直接面会ができなくなるといった最近の事情を取り入れています。


 ただ、認知症の親の介護を看取った身としては、延命治療の是非に何もふれずに、親孝行の証明とばかり認める場面は非常に腹が立ちました。死生観はそれぞれなので、別に卓が延命治療を望んでもいいのだけど、延命治療を望む=親孝行というあまりにも押しつけの構図にいらっときたのです。


 藤竜也はかつて上野樹里との共演で「お父さんと伊藤さん」という、やはり介護をテーマにした作品にでていましたが、ここでも、娘が自分の生活をなげうって介護をするのが親孝行というストーリーだったので愕然としました。日本の映画界って、世間的な親孝行を推進しようとする道徳的なストーリーになるのが鼻につきます。


 映画のほうは、森山、藤、原といった芸達者の共演は安心して見られます。真木も引いた演技で本作に似合っていました。脇役では三浦誠己、神野三鈴らベテランがしっかりいい仕事をしています。作品自体は渋いのですけどねえ。
posted by 映画好きパパ at 06:47 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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