作品情報 2022年イスラエル、ポーランド映画 監督:レオン・プルドフスキー 出演:デヴィッド・ヘイマン、ウド・キア、オリヴィア・シルハヴィ 上映時間96分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:新宿ピカデリー 2024年劇場鑑賞299本
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【ストーリー】
1960年、家族全員をナチスに殺されたユダヤ人のマリク・ポルスキー(デヴィッド・ヘイマン)は故郷のポーランドを捨て、南米の田舎町に引っ越してひっそりと暮らしていた。ある日、隣にドイツ人のヘルマン・ヘルツォーク(ウド・キア)が越してきた。弁護士のカルテンブルナー夫人(オリヴィア・シルハヴィ)をはじめ一行は何かを警戒しており、ヘルマンも常にサングラスをしてシェパードに守られていた。
そのシェパードが自分の庭に侵入して、家族の思い出の黒いバラを荒らしたため、マリクはヘルマンに抗議。その際、サングラスを外した彼の素顔を見て驚愕する。それは戦前、一度だけ直接会ったヒトラーにそっくりだった。イスラエル領事館に訴えるものの証拠がないと無視されたマリクは、ヘルマンとヒトラーが同一人物か、こっそり調べることに決め…
【感想】
冒頭の戦前の幸せな一家のシーンから一転して、戦後の南米の、町はずれのぼろい一戸建てに一人で住むマリク。スペイン語を覚える気もないし、近所づきあいはお断り。彼が人間に大して絶望しており、孤独で生きる気力もないことがわかってきます。
それがヘルマンが隣に引っ越してきて、生活が一変します。2軒の家だけが町はずれにあって、他の家からは目につきません。ヘルマンも普段は一人暮らしですが、マリク同様、外部の人間を寄せ付けません。犬が庭を荒らしたことから2人の関係も最悪。マリクは2階から望遠レンズ付きのカメラで、ヘルマンの様子を観察します。それが彼にとって生きる活力になるとともに、強引にマリク=ヘルマンと信じ込む妄執もすごい。陰謀論が飛び交う現代への風刺ともいえそうです。
調査するマリクも素人ですから、失敗も多くわりとコミカルに描かれて行きます。一方で、マリクはかつてチェスの名手だったことから、ヘルマンとチェスをするようになり、徐々に交流もはじまっていきます。孤独な老人同士が最初はいがみあっても、他に頼るすべがなくて、友情のようなものが生まれていくというのも観ていてしんみりします。このままほんわか終わるのか、それとも友情はみせかけで殺意を持った残酷な結末になるのか、不穏なまま最後までみせていく演出もお気に入り。
2人の老優の演技合戦は見もの。また、アイヒマンが実際につかまるなど、ナチス高官が南米に隠れ住んでいたという時代背景もよく映し出しています。ヘルマンの正体はだれなのか。僕の予想は外れたけど、なるほどとうならされました。ナチスものというよりも、老人の生き方にフォーカスを与えて、心に染み入る作品といえましょう。マリクの落ちぶれて、掃除もろくにする気になれないほど投げやりになった生活もそのまま出している演出にも好感を持ちました。
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