2024年09月01日

ラストマイル

 人気ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の塚原あゆ子監督と脚本の野木亜紀子コンビによる、同じ世界観で描いたサスペンス。ミステリーとしては弱いけれど、社会問題を背景にした一級の娯楽に仕上がっています。


 作品情報 2024年日本映画 監督:塚原あゆ子 出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ 上映時間129分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズららぽーと横浜  2024年劇場鑑賞305本



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 【ストーリー】
 物流業界の一大イベント、ブラックフライデーを控えて、首都圏各地で爆破テロが相次ぎ、死傷者が出た。爆発物はいずれも巨大物流企業、デイリー・ファースト社の西武蔵野センターから出荷されたものだった。新しく所長に就任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は部下の梨本孔(岡田将生)とさらなる被害を阻止するとともに、物流を止めないという難題を突き付けられる。


 一方、犯行予告の動画を見つけたにもかかわらず警察への連絡を遅らせたエリナに梨本は疑念を抱く。警視庁機動捜査隊の伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)は、動画を発注した男の家に踏み込むのだが…


 【感想】
 デリファス組、「MIU404」の警視庁機動捜査隊組、「アンナチュラル」の不自然死究明研究所組の3組の登場人物が出てきて、MIUの綾野、星野、アンナチュラルの石原さとみ、窪田正孝といった豪華俳優陣が脇役として使われます。ドラマファンとしてはうれしいでしょうし、映画としてもゴージャスみを感じさせます。


 デリファスは外資系企業ということで、日本のトップの五十嵐(ディーン・フジオカ)、現場トップのエリナ、さらに実際に荷物を運ぶ羊急便の責任者の八木(阿部サダヲ)、実際にトラックを運転して荷物を届ける佐野昭(火野正平)、亘(宇野祥平)親子と多彩な登場人物がでてきますが、それぞれキャラクターが立っているのがすごい。


 物語の背景にあるのは暴利をむさぼる巨大企業に弱者は泣くしかない構造のむなしさ。ケン・ローチ監督の「家族を想うとき」を観ると、イギリスでも日本でもまったく同じ構造なのは驚かされます。エリナも外資系企業の幹部として、発注先の八木をこきつかう。まして、実際に運転をする佐野親子などは眼中にありません。一方、佐野親子はどんなに頑張っても1つの荷物を配達して150円にしかなりません。届け出も不在だったら1円にもならない。しかし、それでも働かなければならない弱者の犠牲によって、巨大企業が成り立っています。羊急便のコールセンターが映りますが、こんな狭い所に押し込められて鳴りやまない電話に謝り続けるというのはまさに地獄のようです。


 そして、なぜその企業が成り立つかというと、僕らを含めた普通の人々が少しでも便利に早く、安く商品を得たいから。エリナが株価を気にするシーンもありましたけど、巨大企業ですれば、なんだかわからない世間の前には蟷螂之斧なわけです。この社会構造をエンタメとしてうまく落とし込み、観客が自分自身もしらずに加担していることに気づけば、制作者側の狙い通りでしょう。


 ただ、ミステリーとしては一番のトリックが、ちょっとお粗末。また、満島がテンション高く演じており、エンタメとしては見やすくする一方、巨大企業幹部の立場と、一人の個人としての立場のぶれといった、彼女の心の掘り下げ方も今一つに思えました。それでも娯楽作としては十分楽しめます。


 登場人物は満島も含めて知名度が高く、かつ自分の役柄を理解して表現できるプロばかりをそろえています。満島と岡田は2010年の「悪人」で共演しており、そこから14年たっても外見がたいしてかわってないのはさすが芸能人。「悪人」も好きな映画だけに、あのときと2人ともまったく違う役柄をきっちりこなしていることには感心しました。 
posted by 映画好きパパ at 07:17 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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