2024年09月03日

助産師たちの夜が明ける

 フランスの公立病院で、人手不足の中懸命に働く助産師たちを描いた作品。ドキュメンタリーのようなリアルな描写と、世の中で一番貴い仕事の一つなのにカネのために苦労している姿に世の不条理さを嘆きたくなります。


 作品情報 2023年フランス映画 監督:レア・フェネール 出演:カディジャ・クヤテ、エロイーズ・ジャンジョー、ミリエム・アケディウ 上映時間100分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町  2024年劇場鑑賞308本



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 【ストーリー】
 研修を終えたばかりの新米助産師、ソフィア(カディジャ・クヤテ)とルイーズ(エロイーズ・ジャンジョー)は公立病院の産婦人科に配属される。そこは人手不足で戦場のような忙しさ。コスト削減を進める病院の経営方針で、人員どころか機材もろくにそろっていなかった。


 積極的なソフィアはてきぱきと業務をこなし、指導するベテラン助産師のベネ(ミリエム・アケディウ)らから高く評価される。一方、どんくさいルイーズは怒られてばかり。ところがある日、モニターの不具合からソフィアが担当する新生児が死にかけた。自信を無くした彼女は仕事に集中することができず…


 【感想】
 日本でも医療ドラマは数々あるけれど、これほど混乱した現場というのはみたことがありません。緊急のブザーが鳴り響く中、ランチどころかトイレにも行けず、シフトが回らないため残業は当たり前。子どもを持つ助産師が、自分の子どもに会えないと悲痛な声を上げるほどブラックの極み。そのうえ、設備は古びて故障してもなかなか修理をしてもらえない。よく医療事故が起きないと驚くほどです。


 命が生まれる最前線。日本とフランスで助産師の役割が違うのかもしれませんが、出産時の立ち会いも助産師だけで、彼女たちの責任は重い。一方で、妊婦たちはさまざまな事情を抱えており、未熟児での出産、移民で言葉が通じない、ホームレスで出産後に母子ともいくあてもない、分娩室まで母親がべったり付き添い助産師を怒鳴りまくるクレイマー、そして死産など多くのドラマがおこりますが、あまりにも人出が足りず、本来だったら一つ一つに向き合うべきところが時間が足りません。


 さらに給料も安い。ルイーズが「休暇はモルジブ旅行に行く」といった後、「私の給料で行けるわけないじゃん」と続けるシーンがあるように、これだけ忙しく、多くの命を救っても安月給重労働のブラックのきわみ。産科チームのメンバー間でもぎすぎすすることがしばしばあります。エピローグは助産師たちが待遇改善を求めるデモを写していますが、なんでコンサルとか金融とかの虚業が多額の報酬をもらって、助産師のようなエッセンシャルワーカーがこきつかわれるのか、不思議でなりません。


 映画は2人の新人助産師を中心に、他のメンバーもそれぞれキャラが立ち、医療現場の現状をリアルに伝えてきます。驚いたのは出産シーンで、実際の出産シーンを撮影したものも取り交ぜているそうで、赤ちゃんがちゃんと子宮口からでているところまで映し出しています。このシーンをみれば、他の医療ドラマはフィクションとしかみえないでしょう。


 出演者も演技していることを感じさせないほどナチュラルな存在。カディジャ・クヤテ、エロイーズ・ジャンジョーの主役コンビは、それぞれの挫折、成長を描くのにふさわしい若手女優でしたし、ベテランの厳しさ、そして変わらないことのやるせなさを表現したミリエム・アケディウも素晴らしい。また、男性助産師たちも同志として働いており、変な恋愛シーンなどなく、互いが支えあう描写もお仕事映画として素晴らしかったです。なにより、命の誕生する瞬間がこれほど荘厳であることを、思い知らされました。
posted by 映画好きパパ at 06:45 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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