作品情報 2024年日本映画 監督:一木正恵 出演:森田剛、橋本愛、高良健吾 上映時間113分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ日本橋 2024年劇場鑑賞319本
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【ストーリー】
テレビはなく、ラジオの全盛期だった昭和14年。NHKの新人アナウンサー―の大島美枝子(橋本愛)は研修にやってきたスターアナウンサーの和田信賢(森田剛)の「虫眼鏡で調べて、望遠鏡でしゃべる」という謎の言葉に感銘を受ける。そして、いつも酔っぱらっている和田が、日常から練習をかかさず、市井の人たちから取材している様子に尊敬の念を募らす。
一方、軍部はラジオをプロバガンダや敵を混乱させるニセ情報の武器として使う「電波戦」を構想していた。開戦のニュースを伝えた館野守男(高良健吾)らが、国民の戦意高揚のために勇ましく読み上げるべきと主張するベテランの松内則三(古舘寛治)に賛同する中、和田は自分のアナウンス技術で国民が一つにまとまることを考えていた。
【感想】
太平洋戦争当時のニュース映像をみると、アナウンサーたちの硬い声が入っています。それを伝える彼ら、彼女らの思いに焦点をあてるというのはNHKしかできない試みでしょう。しかも、実名で登場しているわけですから。
戦前は市井の人に深く取材して、戦死者の遺族をはじめとする率直な声を届ける原稿を読んでいた和田は、軍部の一方的な戦火発表の裏に何があるかたいしてわからないまま、原稿を読み上げます。しかし、彼の技術は国民を高揚させ、戦争へと駆り立てていきます。また、ジャワでは、嘘の情報をラジオで流すことでオランダ軍の降伏へとつながります。まさに電波戦の成果が着々と上がりました。
現代でも似たようなもので、ルワンダの虐殺はラジオのニセ情報、プロパガンダが大きな要因でした。まして、テレビやネットなど動画像付きの怪しげな情報がリアルタイムではいってくるような現在では、電波戦の恐ろしさは当時以上です。ロシアや北朝鮮のテレビをみれば、プロパガンダの恐ろしさがわかりますね。
一方、和田は特攻隊となる大学生、朝倉(水上恒司)に取材した際、自分は戦地に行かないのにと批判されます。実際にはアナウンサーの中でも戦死したり、空襲で死亡した人もでていますが、和田にとっては大きな衝撃でした。このあたりの人間性の発露をうまく森田が演じています。彼や橋本をはじめ、配役は完璧。さすがNHKです。
このあたりのアナウンサーの苦悩、あるいは戦争への協力ぶりをストレートに描いているのもNHKだから描けるのでしょう。人によっては戦争協力者としか思えない描き方をしているわけですから。一方で、大きなBGMをはじめちょっと泣かせようとさせているような演出が散見されるのは、もとがテレビドラマだから仕方がないのかな。また、美枝子が開戦のころから反戦思想をもっているのも、微妙でした。
いずれにせよ、戦後の彼らの言動も含め、メディアの恐ろしさ、そして、そのなかの人も僕らと変わらない感情を持った人間だということがわかるのは良かったです。
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