2024年09月17日

ナミビアの砂漠

 劇映画としてのストーリー性が欠如して、河合優実演じるカナの生態を眺めているだけの作品。僕の苦手なタイプなんですけど、河合の演技力がすさまじく、長時間も気にせず堪能できました。


 作品情報 2024年日本映画 監督:山中瑶子 出演:河合優実、金子大地、寛一郎 上映時間137分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ日比谷  2024年劇場鑑賞329本



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 【ストーリー】
 21歳のカナ(河合優実)はエステクリニックの助手として働いている。自分の気持ちに正直な彼女は、不動産会社のサラリーマンのホンダ(寛一郎)と、エリート出身ながらいまはクリエイターのハヤシ(金子大地)と二股をかけている。


 毎日がつまらないカナはいつも不機嫌な表情。まじめなだけで退屈なホンダにはとうとう見切りをつけ、ハヤシと同棲することになる。しかし、ハヤシとの生活は衝突ばかりで、取っ組み合いの喧嘩が繰り広げられる。


 【感想】
 タイトルのナミビアの砂漠は、1日中ナミビアの砂漠の水飲み場を定点観測しているライブカメラのこと。21歳の女性が何を考えているのかおっさんの僕にはわからないし、カナという人間についても理解が難しい。だから、カナが「ナミビアの砂漠」のライブカメラで野生動物をただ眺めるだけなのと同様に、僕も自分の欲望、本能に忠実で動物的な野生チックなカナをライブカメラで眺めている感じでした。


 数分程度の場面のエピソードがぶつぎりのように並びます。登場人物たちの過去や、なぜ付き合うようになったかの説明は一切なし。ライブカメラで得られた情報からこちらが勝手に推測するしかありません。ただ、世間への忖度、相手への配慮が極度に欠けているカナの行動は、僕には絶対にできないし、うらやましいことばかり。自分もカナのように生きられれば、傷を負うけど心は自由になるのにとあこがれていました。


 冒頭、カナはカフェで友人のイチカ(新谷ゆづみ)から、高校時代の同級生の話というどうでも良い話を延々と聞かされます。顔はイチカに向けているけれど、意識は近くの席で「ノーパンしゃぶしゃぶ」のことを話している男性3人組の会話に向けられる。イチカの声が徐々に小さくなって、ノーパンしゃぶしゃぶの話声が次第に大きくなる。これまでにみたことがないけれど、確かに自分もこういうことがあるという演出に驚愕しました。


 その後も、さまざまなテクニックを使ってカナのことを描き出します。初めてカナが「ナミビアの砂漠」の動画を観ているシーンは、ツボに入りすぎて悶絶しそうになりました。また、付き合えば男性優位、同性の友人といれば忖度しないとならないといった閉塞感が嫌で、ずっと不機嫌になっていた彼女が、隣室の住人・遠山(唐田えりか)と謎ダンスを踊るシーンの解放ぶりをみると、小さな個人の話を描いているけれど、映画でしかできない表現だと感心しました。そして、遠山役に男性スキャンダルでキャリアを失墜させた唐田を起用するすごみよ。


 一方、興味深かったのが登場してくる男どもが皆しょーもないやつばかり。山中監督は男に悪意があるとしか思えない感じです。とくに、ホンダの的外れなまじめさで明日の方向に突っ走ってしまう様子は同性の僕から見ても、あちゃーという感じ。一方で、ハヤシとどんどん険悪になって、殴り合いになる様子を観ると、古臭い考えかもしれませんが、女を殴る男は最低だなと思ってしまいます。よく、喧嘩のあとにHに持ち込んで仲直りなんてシーンがあるけれど、徹底的にカネコはダメ男で、すぐに逃げてしまうあたりは笑ってしまいました。しかし、僕自身のなかにもホンダやハヤシ的成分があるのも突きつけられた気がします。また、カナが家族と物理的にも精神的にも分断されていることも、べたついた日本(東アジア)の家族関係の悲惨さと解放を描いているようでうらやましかった。


 さらに、ホンダの同級生で今は高級官僚の三重野(伊島空)、うさんくさい精神科医の東(中島歩)といった脇役から、カナをナンパするホストまでしょーもない男のオンパレード。本当に男への悪意を感じましたけど、それがまたこの映画の見どころでしょう。といって、イチカをはじめとする女たちも、忖度やマウントでいろいろ大変なんですけどね。エステの脱毛に無駄金を払っているルッキズムへの嫌味もきちんと出していますし。ナミビアの動物たちのほうが、はるかに自分の心(本能)に忠実で、虚飾がない分、生きやすいのかもしれません。


 河合は昨年来、多数の作品に出ていますが、本作の演技はずば抜けています。「あんのこと」とあわせてみると、彼女の多才ぶりに感嘆するばかり。そもそも金子大地とは「サマーフィルムに乗って」で共演していますけど、そのときの2人の関係とのあまりにも違いにまた驚きます。また、監督が観客を飽きさせないためか、それとも性の消費への抵抗なのか、僕からするとあまり意味のないシーンでヌードになったり、きわどい下着になったりして、それをきれいに打ち返している彼女の存在感にも驚きました。


 この手の映画が苦手な人もいるでしょうから、他人に勧めにくい作品ですが、少なくとも2024年は河合優実の年になったと宣言してくれる作品でした。映画界の新しいミューズの河合に「映画なんて見て何になるんだよ」みたいなメタな発言をさせているのもツボ。「時々、私は考える」をさらにエキセントリックにした話で、好みでした。
posted by 映画好きパパ at 06:11 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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