作品情報 2024年日本映画 監督:中尾浩之 出演:寛一郎、和田正人、古川琴音 上映時間114分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマ座間 2024年劇場鑑賞336本
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【ストーリー】
江戸時代初期、松前藩士の高坂孝二郎(寛一郎)は兄の栄之助(三浦貴大)とともに蝦夷地にわたり、交易をする準備をしていた。だが、蝦夷地についた夜、栄之助は下働きの善助(和田正人)に殺され、追いかけた孝二郎も善助に斬られて川に転落した。
アイヌの集落に助けられた孝二郎は和人の言葉を話せる村長のアクノ(平野貴大)一家に手当を受け、回復していく。アクノの娘、ヤエヤムノ(佐々木ゆか)らと仲良くなる一方、和人に夫を殺されたリキアンノ(サヘル・ローズ)ら一部の村民からは白い目を向けられていた。兄の敵討ちに向かおうとする孝二郎だが、松前藩がアイヌへの弾圧を強め、アイヌの一部が反乱を起こした。何とか和人とアイヌの仲を取り持とうとする孝二郎は、善助の思いもかけない正体をしり…
【感想】
「ゴールデンカムイ」などでアイヌ文化が知られるようになる一方、現在でも差別的な発言が続いています。まして江戸時代は言葉も風習もまったく和人と違っていたわけで、アイヌへの差別もはるかにひどいものでした。そうしたなか、まだ若くて考えも柔軟な孝二郎がアイヌの人と触れ合ううちに、彼らと親しくなるというのは、往年の西部劇の「ダンス・ウィズ・ウルブス」を思い出しました。
基本的にアイヌ側はアイヌ語のセリフで、字幕もでません。孝二郎同様に観客もアイヌが何をしゃべっているか想像するしかない。アイヌたちの自然豊かな生活の一方、和人の中には犯罪を働く者もおり、松前藩が砂金堀りを許したことで、汚染も広がっていく。また、金銭という感覚がなかったアイヌに対して、松前藩側が暴利をむさぼるのは簡単なこと。自分が松前藩士で故郷には思い人のみつ(古川琴音)や、年老いた母まさ(富田靖子)を残しているだけに、孝二郎はおかしいと思いつつも一方的にアイヌに肩入れするわけにもいきません。
史実では松前藩の弾圧が続くだけに、嫌な予感しかしないまま物語は進んでいきます。しかし、孝二郎の常にまっすぐで、かつ、人の命の大切さを分かるという性格が物語に清涼感を与えます。さらに、史実を変えられないとはいえ、こうしたこともあっただろうなという話にもっていくのは、尾崎将也の脚本はさすがとしかいいようがありません。
アクションシーンは予算が少ないことがわかりつつ、弓矢や鉄砲の威力がこんなにあるのかと観客に臨場感を与える見事なもの。森の中での小規模な戦とはいえ合戦シーンは大作映画や大河ドラマよりもはるかに手に汗握るものでした。ここらへんの孝二郎の動きは、僕からすると疑問に思うところもあるのだけど、実際に人がこういう立場にたったら、あたふたしてしまうのかもしれません。
広大な森林のロケ地をドローンを活用した撮影法は本当に見事。アイヌの集落を再現したセット、アイヌ側の登場人物のメイク、ファッションはもとより、伝統音楽や儀式もきっちりと描いていています。中尾監督はNHKで歴史番組を手掛けていたそうですが、生真面目さが伝わってくるよう。
寛一郎は「ナミビアの砂漠」とは一転、正統派の時代劇の主人公になりきっています。まだ未熟だった孝二郎が、兄を失い、アイヌに助けられてどんどん成長していく姿はみもの。和人のヒロイン役の古川とアイヌのヒロイン役の佐々木の対象的な存在を2人の女優がきちんと表現しているのもいい。さらに、アイヌの村長役の平野はノーマークの俳優でしたけど、どっしりと構えた大木のような村の中心というのを良く出していました。脇に至るまで配役は完璧です。
北海道以外ではアイヌへの関心はまだまだ低いですが、エンタメとしても十分楽しめますし、アイヌの苦難の歴史の一部もわかります。多くの人に観てもらいたい作品でした。
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