2024年10月02日

ゴングなき戦い

 東京の下町にあるミニシアターのストレンジャーを初訪問。開業2年目ということもあり、清潔感でコーヒーも美味しかった。「侍タイムスリッパ―」の安田淳一監督の前作「ごはん」を観に来て、その前に時間があったので本作を鑑賞。フィルマークスで評価が高いボクシング映画ということで観ましたが、「ロッキー」のようなスカッとした作品でなく人生のレールから外れた中年男の悲哀をとことん描いてしんどかった。
 
 作品情報 1972年米国映画 監督:ジョン・ヒューストン 出演:ステイシー・キーチ、ジェフ・ブリッジス、スーザン・ティレル 上映時間92分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:ストレンジャー  2024年劇場鑑賞351本

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 【ストーリー】
 妻に逃げられて、ボクシングを止めたタリー(ステイシー・キーチ)は、町の体育館で一人でボクシングの練習をしているアーニー(ジェフ・ブリッジス)と出会い、彼の才能に惚れ込んで自分の元トレーナーのルーベン(ニコラス・コラサント)を紹介する。


 ボクシングジムに通ったことのないアーニーは、ルーベンの指導の元でめきめきと上達する。一方、その姿を観たタリーも現役に復帰しようと決意する。だが、1年半のブランクは長く…


 【感想】
 ハリウッド黄金期の巨匠の一人ヒューストン監督ですが、70年代という時代背景もあり、下町の庶民の冴えない人生を、ボクシングをフックとして描いています。キーチは30歳のはずですが、うらぶれて体もらだらしなく10歳ぐらい年上に見えて、妻に逃げられボクシングを止めて日雇いをして、酒におぼれるという典型的なダメ中年になりきってました。


 一方、金髪の美青年アーニーは、ボクサーの才能をタリーにもルーベンにも認められますが、単純なサクセスストーリーにしないのが驚き。デビュー戦は相手の反則であっさり負け、恋人のフェイ(キャンディ・クラーク)が妊娠してしまうなど、私生活も試合の足を引っ張ります。


 現役復帰を図るタリーも、酒場で知り合ったメンヘラ女オーマ(スーザン・ティレル)に振り回され、やさぐれた日々。4年後に作られる「ロッキー」と違って、恋人は精神的にも金銭的にも負担にしかならないし、酒からも逃げられません。一度、人生がダメになったらそこから逃げ出すのはいかに大変か。アメリカンニューシネマに含まれるのかはよくわからないけれど、とにかく将来に希望が持てない時代、悲惨な下層階級のリアルを淡々と描いた感じ。時間が飛ぶのに説明なくつなげて、俳優の表情や衣装でその間のことを見せるのもまたリアル。人種問題にもさりげなく言及するのも時代を感じさせます。


 また、ボクシングシーンも「ロッキー」の前ということもあるのでしょうけど、躍動感、勇壮感が皆無。ひたすら泥臭く殴り合っている。実際のボクシングの試合を観たことがないのでわからないのですけど、これも非常にリアル。そして、アーニーも若さと才能があるのに、タリーのようになりつつある自分を感じており、若さを失うことの恐怖を描いているのも、名匠ヒューストン監督ならではの作品なんでしょうね。


posted by 映画好きパパ at 06:02 | Comment(0) | 2024年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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