作品情報 2024年日本映画 監督:荻上直子 出演:堂本剛、綾野剛、小林聡美 上映時間117分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2024年劇場鑑賞392本
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【ストーリー】
美大を卒業後にろくな仕事がなく、中年になるまで現代美術家の秋元(吉田鋼太郎)に搾取され続けてきた沢田(堂本剛)。後輩の矢島(吉岡里帆)には、無気力で搾取にも黙って受け入れる姿をあきれられるほど。しかも、自転車事故で右手を骨折したためクビになってしまう。安アパートでは漫画家志望の迷惑な隣人・横山(綾野剛)に絡まれる日々。
生活に困った沢田はコンビニでのバイトを始めるとともに、これまで集めてきたアートをなじみのリサイクルショップ店主(片桐はいり)に売る。そこには自分が書いた「丸」の絵もあった。ところが、美術関係の謎の大物、土屋(早乙女太一)が現われ、沢田の丸を100万円で買い取るといい、大物画廊のオーナー、若草(小林聡美)がマネジメントすると提案してくる。
【感想】
勝手に周囲が盛り上がって自分の知らない間に祭り上げられるというのは、現在の評価社会への痛烈な皮肉。そして、現代アートそのものが内容よりも、だれが評価したかで決められるといううさんくささを暴いています。映画界も含めて、評論や金銭のいかがわしさというのは当事者だからいいたいこともあるのでしょう。早乙女と小林の権威の象徴としての大げさな演技はもちろん、謎の老富豪(柄本明)の意味のあるのだかないのだか、まったく不明の行動も同一。
沢田の書いた丸が、平和の象徴とか、終わりも始まりもないとか勝手に意味付けられるところは笑えてしまいます。書いた本人もわかってないのに周囲がどんどん盛り上がり、横山からは猛烈な妬みをうける。沢田が丸に関してはほとんど感情を見せないことも、より不条理コメディのおかしさを増しています。
また、沢田に迷惑をかけ続ける横山が、常に何か世の中の役に立ちたいと、強烈な焦りを覚えていることも、評価社会への皮肉であるとともに、多様性とかいわれつつも、結局、歯車を求めて本人たちも喜んで受け入れている現状を批判しています。やたら「格差反対」のデモをする矢島も同様で、彼女を戯画的に描いていることが何とも皮肉。結局、自分の言葉で自分の好きなように生きるということが難しいのですよね。別に役に立たなくてもいいじゃない。出演者のなかで唯一それができていたのは、ミャンマー人でコンビニバイトの先輩のモー(森崎ウィン)だけだったというのも、日本のいまを象徴しているようです。
荻上監督独特のゆるーいテンポなんだけど、皮肉、シニカルな視線はこれまでにないもの。前作の「波紋」からさらに進んだ形。堂本の映画界復帰は久々で、歌手としての活躍はもとより、俳優としても独特の演技ができるのだからもっといろんな作品に登場してほしいなあ。テンポや内容が人を選ぶ作品だけに、他人に勧めにくいですが、個人的にはうならされました。
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