作品情報 2023年メキシコ映画 監督:クリストファー・ザラ 出演:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ 上映時間125分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2024年劇場鑑賞469本
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【ストーリー】
犯罪と貧困にまみれるメキシコの国境の町マタモロスの小学校にやってきた新任教師のファレス(エウヘニオ・デルベス)。6年生の担任になった彼はいきなり机をとっぱらって、船が難破したら救命ボートにどうやって乗せるかなど、教科書を無視して授業をはじめ、しかし、これは児童に勉強の楽しさを知ってもらい、自らが主体的に学ぶようにしようというファレスのアイデアだった。
児童たちでなく、校長のチョチョ(ダニエル・ハダッド)も困惑する。しかし、浮力や哲学など難しい勉強に自ら取り組む児童たちをみて、チョチョも考えを改める。しかし、子どもたちの問題は学校だけで解決できるようなものでなかった。クラス一の秀才のパロマ(ジェニファー・トレホ)は病気の父(ヒルベルト・バラーサ)の面倒をみながら、ゴミ拾いでカネを稼ぐ。お調子者の男児ニコ(ダニーロ・グアルディオラ)は両親がおらず、ギャング団から勧誘を受けていた…
【感想】
勉強というのは本来楽しいものであり、知識を詰め込む暗記だけではないというのは日本でも言われることです。本作がどの程度実話をもとにしているのかわかりませんが、ファレスの奇想天外な授業と、児童一人一人に寄り添い、対等な立場で勉強をしていこうという姿勢は、子どもたちの学習意欲を引き出しました。
それだけでなく、子どもたちは勉強を通じて夢を抱き始めます。パロマは天文学を勉強して、NASAの子ども用キャンプに参加したい。ニコは穴の開いたボートを修理して、海に乗り出したい。しかし、それを邪魔するのは常識にとらわれた大人たち。女に勉強は必要ないとか、夢なんかみるだけ無駄といって子供の勉強の邪魔をします。教師ですら自分の給料アップのために共通テストの問題を買収して手に入れるなど、児童たちに勉強の楽しさを教えようということを忘れています。また、ファレス自身もかつてはそのような教師だったという過去もいい。ネットの教育動画をみて、それを実践していくというのはいかにも現在的(劇中の時間は2011年ですが)。
ただ、メキシコの厳しい社会をみると、大人たちの言葉にも一理あります。パロマの父がファレスに、「子どもたちに夢をもたせるが、卒業したらそこでおしまいで、次の児童のところにいくのだろう」と批判する言葉が重い。実際、児童ではパロマ、ニコと生まれて初めて哲学に関心をもった女子児童のルぺ(ミア・フェルナンダ・ソリス)の3人に焦点があたっていますが、それぞれの結末はバラバラで、勉強が夢に結び付いたものもいれば、むしろ勉強しなかったほうが良かったものもいます。
しかし、それでも、夢を見ないで目先のことに追われ、犯罪すら普通の生活におちいってしまうと、人生はそこで積んでしまいます。少なくともそこから脱出するには勉強という手段が一番であることを教えてくれます。僕も子供のころにもっとしっかりと勉強しておけばよかったと思ってしまいました。
勉強場面だけでなく、家庭では妻の尻に敷かれているファレスの人間味あふれる様子や、最初は事なかれ主義だった中年男の校長ですら、教職についたころの夢を思い出し、再び成長していく様子、そして、ニコとパロマの初恋など、観客を引き付ける要素はたくさん盛り込んでいます。それだけに、単純なハッピーエンドにしないのはうまいと思いました。
エウヘニオ・デルベスは米アカデミー賞を受賞した「コーダ あいのうた」の合唱教師役など、ハリウッド映画でもおなじみでさすがのウマさ。一方、ハゲでデブの校長役のダニエル・ハダッドが、話を重すぎないようにさせています。また、ジェニファー・トレホの目をみはるような美少女ぶりも印象的。ギャングの抗争で死体がごろごろして、警察の検問だらけの町を再現した美術、撮影もなかなかのものでした。勉強の大切さを思い出すのに最適な作品です。なお、冒頭とエンディングにでてくる少年が同じというのも、なんとも考えさせられます。
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