2025年01月13日

どうすればよかったか?

 SNSなどで話題が沸騰していましたが、鬱映画好きの僕でも勇気がなかなかなく、年が明けてようやく観に行ったドキュメンタリー。噂にたがわず衝撃作で、今まで見た中でもトップクラスにしんどい作品でした。セリフがちょっと聞き取りづらかったかも。


 作品情報 2024年日本映画ドキュメンタリー 監督:藤野知明  上映時間101分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:キネカ大森 2025年劇場鑑賞4本



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【ストーリー、感想】
 1983年、高校生だった藤野知明の姉で大学の医学部に通っていた8歳上の姉に統合失調症の症状があらわれる。医学者の父は教え子の精神科医に見せたところ健康だとして、治療はしない。症状が悪化する中、やはり医学者の母ともども、娘が統合失調症であることを拒否して、自宅で引きこもって暮らした。


 そんな家を飛び出した知明は、一般企業に就職後、映像作家の道を歩み始める。2001年、家族の記録を残そうとフィルムを回し始め…


 鑑賞後、ネットでほかの人の感想を巡回していましたが、自分と同じ感想の人がいなかったのが衝撃でした。僕の周りに精神をやんだ人がおらず、こういった病気への知識が乏しいかもしれません。僕は、完全に両親目線でこの作品を観ていました。


 現在でも精神病院で患者が虐待されるなどのトラブルが報じられています。まして1980年代だったら、病院の環境や精神病への偏見も今よりはるかに強かったでしょう。もし、両親が医学の素人だったら素直に精神病院に入院させたかもしれません。しかし、医学者だけに娘の病状を直視できなかったし、精神病院が劣悪な環境だということをしっていた。統合失調症の原因は今でも不明ですし、専門家である自分たちが自宅で愛情をもって看護しようというのが、あながち否定されるべきだったと思えなかったのでした。


 フィルムが回り始めたころは両親とも70代、姉は40代です。20年以上の看護に疲れ果てる一方、それが日常となっており、姉が意味の分からない暴言をはいても平然と受け入れています。一方、藤野監督のほうが、多感な高校生の頃に姉が病気になり、両親が自分の言うことを聞いてくれなかったためか、両親にたいしてはかなり距離をおいています。それゆえにこの映画の突き放したようなトーンが長所にもなっているのでしょうけど、僕は監督が両親をぐいぐい詰める様子がたまらなくつらかった。両親も頭がはっきりしているころは自分なりに理屈を理路整然と組み立てて藤野監督を論破していたのですが、年をとるとそうした思考能力も落ちていきます。さらに、ここまでの数十年の自分たちの生活が無駄だと感じたくないでしょうから、記憶の改ざんもあるでしょう。しかし、どこまでも正論かつ落ち着いた声で質問を続ける藤野監督のほうが怖かった。


 統合失調症患者の心の中は僕にはわかりません。でも、占いにはまったり、父から研究を教わったりする生活がそんなに不幸なものだったのか。もちろん、早い段階で正しい治療を受けて症状がよくなるにこしたことはありません。それでも自分なりの生活を家族は作っていた。藤野監督がたまに帰省すると、姉を散歩などに連れ出す様子が描かれましたが、「カリフォルニアの娘」(たまに遠くから帰ってくる子供が自宅の介護リズムをめちゃめちゃにする」という言葉を思い出してしまいました。


 さらに、地獄なのは両親がどんどん年をとっていくことです。80歳になっても90歳になっても子供を介護しないとならない。家はどんどん荒れ果て、食卓の中身もかわっていく。さらに、気力、体力も衰え、思考能力も落ちてくる。老化がこんなに怖いものだとは思わなかったし、母が軽い認知症がでたときに、自分はなんでもっと優しくできなかったのだろうと自分自身の身におきかえてしまい、とにかくつらくてたまりませんでした。


 SNSでは姉や藤野監督の目線にたった感想が多いけれど、僕は両親こそ数十年にわたって一番の地獄をみて、そこでなんとか自分の精神を保とうとしたけれど、ひずみがとうとうでてしまったようにおもえてなりません。自分自身で早めに精神病院に入院させれば良かったと自問自答の数十年ではなかったでしょうか。そして両親は子供を必ずしも正しい形でないとはいえ愛していたことが伝わってきます。もし、その愛が、かえって子供を不幸にしていたら親の存在というのはなんなのか。その部分も思わず自分に置き換えてしまいました。


 20年以上にわたって家族を冷静に撮影していく藤野監督がどのような人かわかりませんが、映像のプロというのはこういう人なんでしょうね。とにかく、観た人それぞれが人間や家族について真剣に考えられる必見の作品といえましょう。
posted by 映画好きパパ at 06:45 | Comment(0) | 2025年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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