作品情報 2023年ドイツ、オーストリア 、 スイス、 イギリス映画 監督:キリアン・リートホーフ 出演:パウラ・ベーア、ヤニス・ニーヴーナー、カッチャ・リーマン 上映時間121分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2025年劇場鑑賞61本
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【ストーリー】
1940年のドイツベルリン。18歳の女性ステラ(パウラ・ベーア)はジャズシンガーになってアメリカにわたるのが夢だった。しかし、ユダヤ人ということでビザが発行されず、やがてナチスのユダヤ狩りにあってしまう。
遊び人で裏社会に通じているユダヤ人仲間のロルフ(ヤニス・ニーヴーナー)からニセの身分証をもらったステラは自由を謳歌するが、仲間の裏切りで秘密警察ゲシュタポに捕まってしまう。ゲシュタポから収容所に送られたくなければユダヤ人の情報を渡すようにいわれた彼女は、両親(ルーカス・ミコ、カッチャ・リーマン)が捕まったこともあり、同胞を売る仕事をするようになり…
【感想】
最初にこの物語はフィクションだが、戦犯裁判の記録をもとにしたという注釈があり、エンディングロールでステラの戦後の行動について触れられています。どこまでが本当かわかりませんが、実際にステラのようにユダヤ人同胞を売った人間がいたわけです。
自分や親の命を守るために仲間を売る。売られたユダヤ人の多くは当然、殺されるわけですから恐ろしい選択です。しかし、僕も含めて多くの人は自分の命がかわいいでしょう。戦後の裁判結果も含めて、彼女はどういう選択をとれば良かったのか正解はありません。
また、ステラがスターになる夢や恋愛に積極的で、聖人君子でないところもリアルさを感じます。最初は良心の呵責があった彼女も、任務についていればユダヤ人であるにもかかわらず、レストランやカフェも自由に生き放題とあり、割り切ったように遊びまくります。これはユダヤ人仲間から嫌われた理由の一つですけど、やはり人間は弱いものだからこうなってもしかたがないのかな。ステラやロルフが空襲の町のなかで、大声で歌い騒いでいるのに、何もかもやけっぱちになった人の哀れさが浮き彫りになります。本当に人間は何のために生まれてくるのか。戦争はどこまで人間性を狂わせるのかというテーマは重たいです。
しかし、映画のバランスが個人的には合わず、ステラの戦前のシーンの時間を削っても、終戦時の彼女の様子やソ連に捕まったときの描写を観たかった。パウラ・ベーアを観るのは「ある画家の数奇な運命」(2018)のヒロイン以来ですが、若いのにこういう現代史の映画が良く似合う。単なる悪役にも被害者にもしない、重層的な人間性をよく演じていました。
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