2025年04月15日

黒部の太陽

 丸の内TOEIが閉館するのに伴い、邦画各社が協力して往年の名作を上映する「昭和100年映画祭」が開かれています。黒部の太陽は主演の石原裕次郎が、生前、映画館以外の上映を認めなかった作品なので、ぜひとも大スクリーンでみたいといってきましたが、すごい迫力。今ではこれほどの邦画はとても撮影できないだろうな。


 作品情報 1968年日本映画 監督:熊井啓 出演:石原裕次郎、辰巳柳太郎、三船敏郎 上映時間196分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:丸の内TOEI 2025年劇場鑑賞127本



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 【ストーリー】
 1956年、関西電力は日本の将来の電力需要を賄うため、富山県に黒部第四ダム(黒四ダム)の建設を決定した。前人未到の地での巨大工事に、現地の工事責任者に任命された北川(三船敏郎)は当初、辞退するが、社長の太田垣(滝沢修)に説得され引き受ける。


 5つの工区に分かれているが、そのうち、熊谷組の担当するトンネル工事が最も難航が予想された。直接トンネルを掘る熊谷組の下請け、岩岡組の社長の岩岡源三(辰巳柳太郎)はトンネルの鬼と言われ、労務者の命に関係なく工事を邁進し、自分の長男の与一郎(寺田誠)も工事中の事故で失っていた。そのため、次男の剛(石原裕次郎)は父親に反発、家を飛び出していた。北川、岩岡とも顔なじみの間組幹部、国木田(加藤武)の仲介で剛と北川の長女、由紀(樫山文枝)との間に縁談が起きる。一方、現地で作業する北川や源三は予想をはるかに超える難工事に直面し、ついに源三が事故でけがをしてしまい…


 【感想】
 終戦からようやく立ち直ったとはいえ、まだ人命は軽く、「黒部にけがはない」(けがどころか死んでしまう)と言われたほどの難工事。特に映画でも大きく時間を割いていますが、フォッサマグマの破砕帯工事ではトンネルの落盤と大量の出水で一日に数センチしか工事が進まないこともしばしば。工事全体で171人も亡くなっています。


 映画は3時間以上ということもあり、いくつかの筋がありますが一番印象的なのは岩岡父子の葛藤でしょう。源三はトンネル工事をするために自分が生まれてきたと信じていて、そのためには自分の子供すら犠牲にします。労務者の命は虫けら同然で、なおかつ昔気質で機械よりも手堀りを信用。気に入られないと部下や剛に平気で暴力を振るうパワハラ男です。一方、そんな父に反発した剛は京大の建築学科に進んだエリート。父のことを憎み、義父となる北川にダム工事反対を訴えます。


 しかし、親子の因縁というか、父がけがをして陣頭指揮をとれなくなると代わりに自分が陣頭指揮をとります。このあたりは、今の感覚ではちょっと信じられないでしょうが、80年前は会社自体が家族のようなもの。今まで外にいた2代目がすんなり現場に入るというのは当たり前だったのでしょう。


 また、物語の途中で北川の次女、牧子(日色ともゑ)が白血病にかかっていることがわかります。しかし北川の妻の加代(高峰三枝子)や由紀、さらに由紀から相談を受けた剛も、工事に支障があってはならないと北川にそのことを告げません。ワーク・ライフ・バランスの令和では信じられないでしょうが、仕事は命がけで、家族はそれをささえなければならない。僕にはとてもできないけれど、こうした人々のおかげで、日本は復興から立ち直ったともいえます。ちなみにモデルとなった関西電力の方の娘も本当にこの時期に白血病で亡くなったそうです。一方、国木田が強引に見合いを進める場面など、今ではセクハラになるけれど、80年の間の結婚観、男女観が変わったというのも興味深い。


 同時に昭和30年代が舞台のため、ふしぶしに平和へのおもいがあるのもいい。そして、日本経済を自分たちで復興しなければという工事関係者の熱意も今では信じられません。太田垣も北川も安全第一を掲げますが、犠牲者が相次いでも工事はやめません。その太田垣は戦後のどさくさで自分の子供を失ったので、これ以上失うものはないと、温厚そうな外見と裏腹に異様な迫力で工事を進めていきます。実際、ダムの完成後は関西の電力の大部分を賄ったわけですけど、労災、過労死当たり前の上に高度成長が成り立っていることを改めて実感させられました。それだけに完成時の喜びは大きい。今だったらヘルメットで日本酒飲むなんて衛生上問題になりそうですが、やはり昭和の熱気なんですよね。岩岡剛のモデルの人は、その後、青函トンネルや東京湾アクアライン工事も参加しており、昭和の熱意が今の我々の生活をささえているわけです。


 映画としては、撮影をどうやったのか信じられないほどトンネル工事の鉄砲水シーンは迫力があります。実際に、一歩間違えれば俳優が大けがしそうになったこともあるそう。人間が知恵を絞って、死に物狂いで働いても、平然と押しつぶす自然の猛威をこれほど感じる映画はまずないでしょう。空撮を多用した北アルプスの風景も見事です。また、終戦から10年ちょっとなのに、大型ダンプや掘削機などの重機が大量に映し出され、技術の進歩にも驚かされました。大量のエキストラによる工事シーンもCGがないから全部人間なわけで驚きます。ちなみにエキストラの多くは実際に黒四ダムの作業員だそう。演出も凝っていて、死者が出るシーンでは人間のセリフは無音で、ひたすら出水のざあざあとの水の音だけとか。黛敏郎のテーマ曲もよきかな。


 石原、三船のダブル主演ですけど、三船はサラリーマン役であっても迫力が古武士のよう。一方、石原は前半のひょうひょうとした青年という役柄が、後半は自ら作業の先頭に立つ一方、危険な工事にいらだって作業員から突き上げられるなど苦渋に満ちた演技になり、使い分けが見事。また、当時の有名俳優を並べた出演者の中で、おそらく唯一今でも活躍している寺尾聡が、新人作業員役で登場。実の父親の宇野重吉と映画でも親子で作業員をしており、その若々しさにはびっくり。加藤武は金田一耕助シリーズのように、手をポンと叩いていたのも笑えました。


posted by 映画好きパパ at 06:02 | Comment(0) | 2025年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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