作品情報 2024年日本映画ドキュメンタリー 監督:山本和宏 ナレーション:リリー・フランキー 上映時間94分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:シネスイッチ銀座 2025年劇場鑑賞141本
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【ストーリー、感想】
石井哲代さんは1920年に産まれ、小学校の教師をしていた。職場で恋愛結婚した夫とは20年以上前に死別。子供もいないため農村でひとり暮らしをしており、近所にすむ姪たちが、様子を見に来てくれる。
映画は2021年、哲代さんが101歳のときから24年の104歳の時まで密着しました。哲代さんは102歳の時に「102歳、一人暮らし」という本を出していますが、そちらは未読で、本作で初めて彼女の存在を知りました。
驚いたのが、杖を使うとはいえちゃんと歩けて、話し方も明瞭。家事や野良仕事もしているということです。僕の母は80代後半で寝たきりになったので、100歳を超えてこんな元気なことに驚きました。
哲代さんが親戚の小学生に長生きの秘訣を聴かれたときに「好き嫌いせず3食なんでも食べること」と言いました。このほか、いつもニコニコ楽しくしていること、感謝の気持ちを忘れないことも長生きの秘訣だそう。それから哲代さんは言及しなかったけど、家の前が坂道なので体を動かしていることも重要でしょう。もちろん、医学的には長命遺伝子があるのでしょうけど、お茶も自分でやかんのお湯を沸かしていれて、誕生日にはケーキを頬張るなど80代といっても十分通用しそう。それでも包丁で果物を切るシーンとか怪我をしないかハラハラしましたが。
ただ、長生きすればするほどできることは少なくなります。お風呂も99歳まで一人で入っていたのが、今は介護をうけないと入れなくなりました。また、どんどん体調も落ちて、103歳を超えてからは入退院を繰り返します。それでも、長年の思い出のある自宅が第一で、気を使わないようにと一人暮らしをつづけるのはすごい。姪など近所にすむ親族、友人、介護ヘルパーなど周囲の助けが必要だけど、それこそニコニコ感謝する哲代さんのために何とかしようと自然に思うのでしょう。地元の集落では哲代さんの音頭で50年前に老人会を作って週に1度は気の置けない仲間たちが集まっていて、いくつになっても友情が成り立つというのも感動的です。
圧巻の場面が2つあり、一つは哲代さんが1941年に最初に受け持ちをした小学校の同窓会。生徒たちも80歳を超えて、半数以上が欠席したのですけど哲代さんの指揮で「仰げば尊し」を大合唱し、80年前の小学校時代の思い出を生徒たちと生き生きと話す様子は、小学校時代の恩師との関係がいかに深かったのか感動しました。また、戦時中の教育の様子や墨塗り教科書などの証言を当事者から聞けるのも感慨深い。まさに「二十四の瞳」が現代によみがえったよう。
もう一つは、哲代さんの7つ下の妹が脳梗塞で施設に寝たきりになったのを見舞いに行った時のこと。コロナ禍でアクリル板越しにしか話しかけられません。また、妹は哲代さんのきょうだいでただ一人の生き残り。しかも神戸の施設に入っています。だから、今生の別れと言ってもいいのだけど、この2人の対面は思わずこちらももらい泣きしそうになりました。
ただ、哲代さんは本人が言うように非常に恵まれているわけです。頭もしっかりしていますし、寝たきりにはなっていません。だから理想の晩年なんですけど、多くの人は晩年に苦しむことになります。果たして自分はどういう晩年を迎えるのか。いつしか自分に置き換えて考えていました。
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