2025年05月18日

ロザリー

 ホルモンバランスの崩れで体毛が増えてしまう多毛症の女性を描いたフランスの歴史劇。予告編から夫婦がルッキズムの偏見を乗り越えるラブロマンスかと思いきや、さらに一段上の内容となっている佳作でした。


 作品情報 2023年フランス、ベルギー映画 監督:ステファニー・ディ・ジュースト 出演:ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ 上映時間115分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2025年劇場鑑賞171本



ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村

 【ストーリー】
 19世紀後半のフランスの田舎町。ロザリー(ナディア・テレスキウィッツ)は生まれつき多毛症に悩まされ、年老いた父のポール(ギュスターヴ・ケルバーン)から追い払われるように、カフェを営むアベル(ブノワ・マジメル)に持参金付きで結婚させられる。


 初夜でロザリーの体が毛むくじゃらのことを知ったアベルは騙されたと激怒。だが、カフェは赤字で町の有力者のバルセリン(ベンジャミン・ビオレイ)から借金をしていたアベルは、持参金を使ってしまい離婚はできなかった。一方、ロザリーは何とかアベルのためになろうと、ひげを生やした自分をカフェの見世物にしようと提案する。渋るアベルをよそに、ロザリーを見に多くの客が押し寄せた。だが、それで大きなトラブルが起きてしまい…


 【感想】
 19世紀末、ひげを生やして夫のカフェの客寄せとなったクレマンティーヌ・ドレの実話をもとにしています。しかし、本作ではいくつもの現代的テーマを取り入れています。まずはルッキズム。当初、ひげも体毛も見えなかったロザリーは美女に見え、アベルは喜んで結婚に応じます。ところが、体毛だらけの体を見た瞬間にひどい言葉をはき、家から追い出します。


 幼いころから体毛のことでいじめられ、父のポールからも見放されていた彼女。何とか隠そうと剃刀で毛を剃っていますが今のような脱毛クリームもなく、血だらけになってのお手入れでした。もちろん、美女と結婚したと思ってて当てがはずれたというのは理解できますけれど、だからといってひどい言葉を投げつけるのはあまりです。しかも、アベルはなかなかロザリーに心を開かず、町の娼婦(アンナ・ビオレイ)で性欲を処理する始末。それでもロザリーは懸命にアベルに尽くそうとします。また、バルセリンの横暴さも含め、ルッキズムのひどさ、家父長制のひどさが伝わってきます。


 当初の予想とは裏腹にカフェは大評判になりました。そのことがロザリーに自信をあたえます。同時に閉鎖的な村で暮らす人々の中でも貧しい女性を中心とした弱者たちが、他人とまったく違う人が生き生きとしている様子に勇気づけられていきます。一方で、バルセリンや彼の部下のピエール(ギヨーム・グイ)といった横暴な連中はそれを苦々しく思います。女性のなかでも、アベルの様子が奔放すぎると嫌う人もいました。これも、現在に通じる話で、出る杭は打たれるというのは古今東西変わらないということですね。


 また、ロザリーの評判を聞いた村の写真家が絵葉書をつくり、近隣の地域へ評判が広がっていきます。これは実際にクレマンティーヌ・ドレも同様だったそう。ところが、本作がひねっているのは、そのことがさらに村の保守層からにらまれることになるのです。現在でいうとインスタとかでバズった人が批判されるようなものでしょう。ロザリーが調子に乗りすぎているように見えるけど、これは今まで抑圧され、恥だ欠点だと思っていた体毛が評判を得たことで起きた反動かと思うと、応援したくなります。


 そして、時代背景として普仏戦争の直後だということが上げられます。アベルもピエールも戦争で心身に傷をおっていました。さらに残酷な現実をみたために優しさが失われています。一方、資本家であるバルセリンとの格差は絶望的。これまた現代の課題を時代劇に投影しているよう。


 全体的に抑制された演出になっていることには好感を持ちましたが、これは退屈と感じる人もいそう。しかし、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」をアレンジしたBGMなど劇伴はすばらしい。また、青を好んだロザリーのファッションも、当時の庶民とはいえ彼女のおしゃれさを感じて応援したくなりました。心にしみわたるような秀作です。
posted by 映画好きパパ at 06:47 | Comment(0) | 2025年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。