作品情報 2024年日本映画 監督:馬渕ありさ 出演:東杏璃、阿部能丸、隈坂健太 上映時間49分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:テアトル新宿 2025年劇場鑑賞172本
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【ストーリー】
住宅街でひっそりと暮らす藤見家は両親(阿部能丸、登坂香代子)、娘のあんり(東杏璃)ともゾンビだった。感染が広がらないよう外出はせず、他人と触れ合わないようにしていたのだが、父親の剛は外出ができないことで落ち込むあんりのために、せめて世間のゾンビへの偏見を減らそうとユーチューバーを始める。
ところが、あんりが偶然、家の前で車にはねられ瀕死の重傷を負った男性一郎(隈坂健太)を、死ぬよりはマシだとかみついてゾンビにしたことで、感染者が拡大。藤見家には一郎や一郎の祖母(下東久美子)など感染した人が次々と同居する羽目に。さらに、新しく加わったみーちゃん(濱名香璃)がユーチューブに出演したところバズってしまい、世間は大騒ぎになる…
【感想】
注目のインディーズ作品が集まる弁慶映画祭のグランプリ作。藤見家がなぜゾンビになったのかとか、政府や警察は何をやっているのかとか通常のゾンビ映画ではクローズアップされがちなところはすべてカット。また、ゾンビになっても理性、感情はもとの人間のままで、朝起きて顔を洗って、歯を磨いてという日常から映し出されます。食事もウーバーイーツでハンバーガーを食べてるし、一家はみんなニコニコ笑ってるし、ゾンビであることをのぞけば、ほのぼのとしたホームドラマが始まっていきます。
ただ、人間をみたら理性が失われて襲いたくなる症状があるのが唯一のゾンビらしさ。また、ゾンビなのでちょっと顔色が悪いライトなゾンビメイクにもなっています。できるだけ他人と接触しないように気を付けていたのが、ひょんなところから襲ってしまって感染が広まるのはピタゴラスイッチみたいで笑えます。実際に、劇場では笑いが耐えませんでした。ゾンビとなって襲うシーンはカットされているので、残酷シーンは皆無。血も流れていないのでは。
あんりがゾンビなのに?妙に可愛くて、一郎との間でラブコメが始まるのと思いきや、みーちゃんがバズったために話がどんどん思わぬ方にと動いていきます。ユーチューブのインフルエンサーをみて簡単に信じてしまう人をからかうように、ゾンビ一家の和やかな生活を見て、自分もゾンビになりたいという人が続出。テレビも多様性の時代などともてはやします。
一方、ネットで盛り上がるとアンチも登場。迷惑系ユーチューバーの襲撃も。こうなると、ゾンビウイルスで感染するのと、SNSの風評被害というウイルスで感染するのと全然変わらないという感じ。この手の映画でありがちな人間のほうが怪物より怖いというのを、現代風にストレートに映し出しているのはうまいなと、すごい感心しました。
馬渕監督はまだ20代だけあってSNSの面白さ、怖さを自然体で描いてすごいなと思いました。併映で馬渕監督の前作「ホモ・アミークス」も上映しており、こちらも人間そっくりの生物「ホモ・アミークス」が人間から虐げられるというお話。ユーモア成分は減っていますが、馬渕監督が人間や社会を描く切り取り方は興味深い。また、舞台あいさつでは馬渕監督、東をはじめ両作の出演者18人も登場して驚かされました。インディーズならではのお祭り感ですね。
役者さんはみな初めて見るかたばかりですが、ゾンビ役の女性陣は東、濱名はもとより登坂、下東を含めて全員キュート。男性陣も最初は祖父役かと思った阿部も含めて全員愛すべき感じ。むしろ人間のユーチューバーやマスコミの連中のほうが、はるかにいらだってしまいました。
なお、「ホモ・アミークス」は生真面目すぎてあまりささらず、「噛む家族」がはるかにはまったので、感想はこちらをメインにしますけれど、「ホモ・アミークス」も異形なものの哀しさ、人間、特に権力を持っているもののひどさというのを描いている切れ味優れた作品でした。今後、馬渕監督がメジャー長編デビューするのを楽しみに待つことにします。
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