2025年05月21日

未完成の映画

 天安門事件の映画を描いて、中国政府から制作禁止処分を受けたロウ・イエ監督が2020年の新型コロナ発生当初の映画の撮影隊の様子をドキュメンタリータッチで描いた意欲作。コロナ関係の作品はぼちぼちでてきますが、当時の先行きの見えない不安感をここまで体現した作品はなかなかないのでは。


 作品情報 2024年シンガポール、ドイツ映画 監督:ロウ・イエ 出演:チン・ハオ、チー・シー、マオ・シャオルイ 上映時間107分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:角川シネマ有楽町 2025年劇場鑑賞174本



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 【ストーリー】
 2019年、映画監督のシャオルイ(マオ・シャオルイ)は10年前に撮影中に中断された映画を完成させようと当時のスタッフ、キャストを集める。中国で禁止されているゲイがテーマのため検閲を通らない可能性は高いが、今や人気俳優になったジャン・チョン(チン・ハオ)を始め一堂は久々の再会に喜んだ。


 撮影は順調に行ったが、ロケ地の武漢で謎のウイルスが発生する。シャオルイは迷った末に撮影の中断を決めるが、スタッフから感染者が出たこともあり、撮影隊は先に帰った数人を除きホテルの中に軟禁状態に。すぐに解除されるだろうという希望的観測とは裏腹に、ついに町中がロックダウンされることになり…


 【感想】
 フェイクドキュメンタリーなのですが、シャオルイ監督をはじめスタッフの多くは役名と本名が一緒。また、ジャン・チョンはロウ・イエ監督の「スプリングフィーバー」(2009年)にチン・ハオが出演したときの役名と一緒で、未公開映像のなかでは「スプリングフィーバー」でカットされた場面がでてくるなど、ドキュメンタリータッチでみせています。冒頭の映画を再開しようと一堂が盛り上がるシーンから、基本的には手持ちカメラ、iPhoneかなんかで撮影している感じ。


 序盤の撮影場面はだらだら続く印象がありますが、ある日突然、コロナで日常生活がシャットアウトされるという恐怖は、この映画を観るまで忘れていました。ジャンは子供が産まれたばかりですが、ホテルに軟禁されているうえ、自宅マンションも外出禁止命令をうけてしまいました。幼い子供を抱えてマンションに一人で残っている妻のサン・チー(チー・シー)が、不安と孤独で泣きながらテレビ電話で訴えるのに対して、なすすべもありません。


 また、SNS時代にふさわしく、突然、当時の武漢市民が撮影した実際の動画が随所で入ってきます。これがなんとも胸を締め付けられます。日本はここまで厳しいロックダウンはありませんでしたが、連日の感染者数や死者数のニュースを聞いて、本当にまたもとの生活に戻れるのか不安になったことを思い出しました。


 さらに、ホテルから出ようとするジャンが警官ともみあいになったり、ロックダウンに反対する市民たちと警察が衝突する当時の実際の映像が流れるなど、中国映画にしては珍しい政府にものもうす場面もでてきます。本作はシンガポールとドイツ資本だから、検閲対象外なんでしょうけど、中国の庶民の率直な印象が伝わるようです。


 一方、暗い話ばかりでなくて、新年(春節)のカウントダウンを一斉にリモートでやって、それまでのうさを晴らすように踊り狂ってみんな部屋からでてきて一緒に踊ったりとか、医療従事者への感謝の映像を流したりと、それでもコロナに負けないで、必死で生きようとする人々の姿を映し出しています。


 あれからたった5年しかたってないのに、当時の感覚はもはや遠くにいったよう。でも、コロナに限らず感染症はいつまた流行するかわかりません。ロウ・イエ監督の前作は日中戦争ものの「サタデー・フィクション」(中島歩史上最高に格好良い悪役!)、その前は地方都市の官僚や経営者の腐敗を描いた「シャドウプレイ」、さらにその前は視覚障がい者の若者たちの恋愛劇「ブラインド・マッサージ」と、取り上げるテーマも幅広い。上映館は少ないですが、現代の中国で絶対チェックしなければならない監督だなと実感しました。
posted by 映画好きパパ at 06:16 | Comment(0) | 2025年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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