作品情報 2025年日本映画 監督:李相日 出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙 上映時間175分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマ茅ヶ崎 2025年劇場鑑賞208本
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【ストーリー】
1964年、長崎の暴力団、立花組組長(永瀬正敏)の息子で15歳の立花喜久雄(黒川想矢)は折から訪れた上方歌舞伎の大役者、花井半二郎(渡辺謙)の前で見事な踊りを見せ、半二郎を感心させる。ところが立花は暴力団抗争で命を失い、かたき討ちに失敗した喜久雄は半二郎の元を訪れ、内弟子になる。
半二郎の妻、幸子(寺島しのぶ)は反対だったが、半二郎の息子の俊介(越山敬達)と同い年だということもあり、渋々受け入れる。やがて、喜久雄は花井東一郎(吉沢亮)、俊介は花井半弥(横浜流星)と名前を改め、若き歌舞伎界のスターとしてデビューする。親友でライバルの2人は芸を高めあいながら精進するが、半二郎が交通事故に遭ったことで、思わぬ運命が降りかかってくる。
【感想】
歌舞伎は血が何よりも大事で、血統の優れている俊介と歌舞伎の才能のある喜久雄はそれぞれ自分が持っていないものを相手が持っていることを知り葛藤する。時には激しい喧嘩をするときもあったものの、相手のことを無二の親友として考えている様子は、同趣旨の作品(例えば「ライオンキング ムファサ」)なんかと比べてかえって、奥行の深さを感じさせます。
そして、その2人や半二郎も含めて生涯追い続けるだれもみたことのない芸の世界とは何なのか。東宝配給ですが松竹の協力、そして、寺島や大物歌舞伎役者・吾妻千五郎役で登場する中村鴈治郎の協力もあって、豪華絢爛な歌舞伎の世界の壮烈な競争が見事に描かれます。何より、1年半も準備したという吉沢、横浜の女形としての魅力とあでやかな踊りは、美しい着物の数々と併せて眼福としかいいようがありません。また、歌舞伎界の大御所を演じた小野川万菊(田中泯)のすさまじいとしか言いようのない演技をみせることで、若手と円熟の域の違いというのが素人にもよくわかるようになっています。
半面、歌舞伎の演目を理解していないと本作の本当の良さはわからない部分があります。例えば、劇中演じられる「曽根崎心中」は、喜久雄と俊介にとっても重要な意味のですが、僕はそもそも「曽根崎心中」を知らないので、その意味合いが今一つピンときませんでした。他の演目も同様です。一方で上映時間が3時間近くと長いのは歌舞伎シーンをじっくりみせているからで、歌舞伎ファンにとっては普段見られない裏側や舞台袖からも観られて満足するのではないでしょうか。
ただ、キャラクターの動きは、歌舞伎という伝統芸能の世界かもしれませんが、わりと類型的。特に女性キャラクターが都合の良いようにしか思えませんでした。長崎から一緒に喜久雄と上京した幼馴染の福田春江(高畑充希)、上京して初めての芸者遊びで知り合った藤駒(見上愛)、歌舞伎界の血の後ろ盾を求めて付き合った吾妻千五郎の娘彰子(森七菜)と美人がなんか知らないけど喜久雄によってHをさせては、喜久雄の芸の邪魔になったら困ると退場していきます。女性陣がまるでゲームの駒のようにしか見えませんでした。同じ伝統芸能を扱い、NHKでドラマ化された「昭和元禄落語心中」に出てくる女性たちの凄みと比べると、本作の女性は刺身のつまのようです。
また、半二郎と俊介は割と考えていることが分かりやすく描かれているのですが、喜久雄は血気溢れる少年時代だったのに、歌舞伎入りしては別人のように優等生で何を考えているのか分からなくなります。もちろん、血の後ろ盾のない彼にとって問題を起こせないということなのかもしれませんけど、俊介との大喧嘩のシーンも含めて、ちょっと優等生に描きすぎているように思ってしまいました。
とはいえ、個人的にはまらなかった部分があったとはいえ、李監督の構成力はお見事で3時間があっという間にすぎました。今年の邦画でも最高に濃密で上質な作品であることは間違いないでしょう。
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