作品情報 2025年日本映画 監督:関根光才 出演:小栗旬、松坂桃李、窪塚洋介 上映時間129分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:横浜ムービル 2025年劇場鑑賞210本
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【ストーリー】
2020年2月、横浜港に入港した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」号で未知のウイルスによる集団感染が発生した。船医ではとても足らず、神奈川県庁の危機管理課は災害派遣医療チーム (DMAT)に出動を要請する。
対策本部で指揮を執ることになった結城(小栗旬)は旧知の仙道(窪塚洋介)をヘッドにした対策チームを大混乱となっている船内に派遣。同時に厚労省の担当官僚の立松(松坂桃李)と時にはぶつかり合いながらも、前例のない危機へと立ち向かう。
【感想】
結城、仙道、立松を軸に、船内の若手医師の真田(池松壮亮)、ダイヤモンド・プリンセス号の乗務員の羽鳥(森七菜)、取材するテレビ局の記者(桜井ユキ)をメインとした群像劇。それぞれの立場から、未曾有のウイルス災害にどう立ち向かうのか、緊急事態に陥ったときに人間はどう対応すれば良いのかを俯瞰的に描いています。基本的にはエモーショナルな場面は最小限にしているけれど、官僚主義にぶつかった結城が人道を最優先にしたと熱く語るシーンは、こういう人材が日本には必要なんだと実感させられます。
また、結城とは好対象にクールな皮肉屋を装うことから、混乱の渦に巻き込まれないですんだ仙道、医療チームの中で唯一家族のシーンがでてくることで患者の痛みをわかるようになった真田、得意の語学力で異国の地で不安にかられる外国人の乗客を懸命に誘導する羽鳥、官僚の権限を駆使して時には清濁併せのむ立松など、それぞれの立場、性格が違えどもプロに徹する姿はさすがの一言です。
各登場人物は仮名だったり、複数の人物の役割を統合したりしているそうですが、基本的な時系列は史実にそっています。当時話題を呼んだ感染専門の大学教授(吹越満)が批判的な動画を流したごたごたもしっかり映画化しています。クレジットには教授の本名が「××氏のユーチューブ」と実名で引用元としてでていましたが、彼の映画の感想も聞いてみたいところです。また、医療従事者の子供が保育園から断られたり、DMATの派遣元の病院に抗議が殺到するなど、当時の人間のあさましい焦りもしっかりと描いています。
わずか5年前ですが、今では遠くに感じられるダイヤモンド・プリンセス号の騒動。それをこうしてしっかりと劇映画として描く製作陣の心意気は尊敬しますし、映画の内容も上質です。しかし、それでも僕は結局、組織がどうあたったかという人間性が薄い作品に思えてなりませんでした。実際、真田以外は家族や友人に大して苦悩する部分は一切ありません。結城や立松は結婚指輪をしていますけど、家族の話はなくて、あくまでもDMATや厚労省という組織の代表という面しかでてきません。このへんは「シン・ゴジラ」「プロジェクトX」の日本ならではの作品と言う感じ。乗客や乗務員の話はわずかでしかないですし、マスコミはいかにも悪役という感じの類型的な扱い。
コロナ初期の混乱を扱った「未完成の映画」のほうが、地を這うような目線であるがゆえに、はるかに心を揺さぶりました。これは、お涙頂戴とかそういう意味ではなくて、当時の恐怖が蘇ったという意味です。本作の場合、こうした組織とは無縁の僕にとっては、難事業の当事者は大変なんだという思いの方が多くて、自分自身の当事者性をあまり感じられなかったのですよね。
とはいえ、数多くの人気俳優が演技をしっかりこなし、船内の状況をきっちり撮影しているというのは、後世に残る作品といえるでしょう。エンドクレジットによる事実と異なる描写の説明も含めて、非常に誠実に作ってあります。あとは、市民目線のコロナに巻き込まれる映画が今後出てくることに期待と言う感じかな。
なお、アメリカのジャーナリスト、マイケル・ルイスの「最悪の予感 パンデミックとの戦い」によると、アメリカではダイヤモンド・プリンセスへの対応は高く評価されているそう。なんでも悪口をいう日本のマスゴミとは偉い違いだと思います。
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