作品情報 2024年韓国映画 監督:イ・オニ 出演:キム・ゴウン、ノ・サンヒョン、チョン・フィ 上映時間118分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿 2025年劇場鑑賞212本
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【ストーリー】
大学生のフンス(ノ・サンヒョン)はゲイだったが、周囲を気にしてカミングアウトできなかった。しかし、ホテルから男性とでてきたことを同級生に目撃されて噂になってしまう。そんな彼を、同級生でフランスからの帰国子女のク・ジェヒ(キム・ゴウン)が恋人のふりをして救ってくれる。彼女は泥酔しているときにフンスが男とキスしているのを目撃していたのだ。
自分に正直なゆえに韓国社会では浮いてしまって悪口をいわれる2人にとって、偽装恋人になることは生き残るすべだったのだ。やがて、2人は互いにかけがえのない存在になっていく…
【感想】
よく、男と女の友情は成立するかなんていうのが議論されますけど、フンスのようなゲイの存在は、そもそもそういった議論自体がばかばかしいといえます。すべての男がすべての女を性的対象にみるというのは愚かな偏見にすぎないからです。しかし、そういった偏見は今でも根強い。まして閉鎖的な韓国社会は日本以上に、世間のルールからはみ出したものに対して厳しいということがよくわかる作品です。
面白いのが、基本的にジェヒは恋多き女なのに、ろくな男がいないということ。一方で人間的には一番まともなフンスはゲイであるがゆえに恋愛対象になりません。ただ、ろくな男がいないというのはある意味現実的かもしれず、自分自身はこういったくそみたいな男にならないように気を付けたいと強く思いました。
逆に、フンスはカミングアウトをしたくないという意識が強すぎるため、ゲイの恋人であるスホ(チョン・フィ)やジェヒを傷つけることもあります。これも非常にリアルで、フンスがジェヒに対して取るようなフラットな態度を自分自身に向けてできないというのが、すごい哀しい。これまた現実でもそうなのかな。
映画は出会ってからの10年以上の歳月をテンポよく描いていきます。でも、10年たっても韓国社会の偏見が大してなおっておらず、堂々と差別はしなくても陰でこそこそいうというのは日本社会とも似ているのかなあ。自分自身、親しい友人にゲイがいないのでなんともいえないですけれど、もし、フンスの母(チャン・ヘジン)のように、子供が同性愛者と気づいたらどんな態度になるのか、その時にならないと分からないけれど、フンスも母親も互いを思いやるがゆえに傷つく描写もなんても哀しくなります。一方、韓国社会ではまだまだ女性は裏方と言う意識があるので、ジェヒのように自分の気持ちに正直だと陰口をいわれまくります。ここも10年以上たっても、ほぼ変化がないのには驚き。
2人の描写はすごくポップで描いており、学生時代、これだけクラブで酒を飲んで踊りまくるなんてうらやましすぎる。疎外感が故の行動なのかもしれませんけど、特に2人でべろべろになるまで飲んで朝を迎えたり、二日酔いの朝に鍋のラーメンをつつくなんて、尊すぎる青春です。また、ジェヒが男にひどい目にあうと、フンスがいろいろ助けてくれるのだけど、これも白雪姫的な王子様が無力なお姫様を助けるのではなくて、どうしようもなく疎外された2人だからこその固い友情というのもなんとも素晴らしい。その結実がクライマックスに韓国のヒット曲「Bad Girl Good Girl」が流れる一連のシークエンス。これまでこの曲を知らなかったのに、これだけ感動させられるのには我ながら驚いてしまいました。
本作はLGBTQが重要なテーマになってるとはいえ、僕のような異性愛者でも社会からの疎外感を感じるのならば、非常に共感して見られる作品といえましょう。男女が恋愛におちいらず、同志、親友としてあり続けるというのは非常に現代的であり、恋愛脳の世の中へのアンチテーゼとして素晴らしい作品です。まあ、キム・ゴウン、ノ・サンヒョンともに美男美女だからというルッキズム的な部分はありますけど、それでもまさに分断が世界的に問題となっている2025年に、これだけの友情の物語を観られるというのは、ありがたい限りです。そして、自分らしさが、社会の普通から外れても、それは全然おかしくないことだと勇気づけてくれる作品でした。
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