2025年07月15日

罪人たち

 アメリカの黒人差別の歴史と音楽の歴史をモチーフにした大傑作のホラー映画。鑑賞後、考察サイトを読めば読むほど奥の深さに感動します。ネタバレあり(といってもあらかた知られていますが)のレビューですので、観たい方は事前情報なしでまず鑑賞を…。

 作品情報 2025年アメリカ映画 監督:ライアン・クーグラー 出演:マイケル・B・ジョーダン、マイルズ・ケイトン、ヘイリー・スタインフェルド 上映時間137分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:109シネマズゆめが丘 2025年劇場鑑賞244本



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 【ストーリー】
 1932年、ミシシッピ州の田舎町クラークスデール。牧師の息子でブルースのミュージシャンになりたいサミー(マイルズ・ケイトン)は、従兄の双子、スモーク(マイケル・B・ジョーダン)とスタック(マイケル・B・ジョーダン、二役)から、「ジューク・ジョイント」(ダンスホール)をオープンするので演奏してほしいと誘われる。


 スモークとスタックはシカゴのギャングとして働いていたが、大金を稼いで帰郷したのだ。身内には優しく物腰も低いが、殺人をもいとわない冷酷さを持っていた。サミーやスタックの元恋人で黒人と白人の混血女性メアリー(ヘイリー・スタインフェルド)、スモークと7年ぶりに会う妻のアニー(ウンミ・モサク)をはじめ町の仲間の協力でジューク・ジョイントはオープン。サミーの演奏は客たちの心を振るわせるが、真実の音楽は邪悪なものを呼びよせる力もあり、レミック(ジャック・オコンネル)たち3人の謎の白人男女が現われ…


 【感想】
 非常に多くの要素を詰め込んだ黒人の映画。冒頭のちょっと驚かせるシーンのあと、1930年代の南部という人種差別のひどさをさりげなく描きながら、クラークスデールの有色人種の人々の生活を丁寧に描いていきます。黒人だけでなく、町の雑貨店主の中国人のチョー夫婦(ヤオ、リー・ジュン・リー)、出番はわずかですが強烈な印象を残すネイティブアメリカンのチェイトン(ナサニエル・アーカンド)らも登場。そして、苦しい生活をしている黒人たちが唯一、楽しめるのが酒(禁酒法時代で堂々とは認められなかった)と音楽を満喫できるジューク・ジョイントなのです。


 前半は露骨な人種差別シーンがないがゆえに、実はそれが社会構造としてしっかり染みついているものをうまく描いています。例えば、真夏に綿花畑で働く黒人は、南北戦争で奴隷から解放されたにもかかわらず、裸足で作業させられています。賃金もドルではなくて、町でしか使えない通貨。つまりカネをためて都会に出ようというのが封じられているわけです。また、混血でも外見が白人に見えるメアリーは、白人社会からも黒人社会からも疎外されています。そもそも、スタックと分かれたのも、当時は異人種での結婚が禁止されていたため。そのことがミッドクレジットシーンの悲哀に強烈につながります。


 一方、サミーは牧師の父親(ソール・ウィリアムズ)からブルースは悪魔の音楽であると禁じられています。しかし、父の制止を振り切ってまで、ジューク・ジョイントで演奏することになります。僕は洋楽には詳しくないのですけど、ブルースはロック、ヒップホップといった現代音楽の源流であり、真の優れた音楽は時代を越えて届きます。サミーの演奏にあわせて客たちが熱狂的なダンスを踊るのですが、そこには現代のDJや黒人の祖であるアフリカの民族楽器の演奏者、さらにチョー夫婦の故郷である中国・京劇のダンサーらも加わって、この世のものとは思えぬ熱狂的なライブとなります。ワンカットで描いたこの音楽場面は映画史に残る美しさといえましょう。エンドロール後もワンシーンあるのでお見逃しなく。


 一方、レミックはアイルランド出身であり、アイルランドの民謡を演奏します。僕も鑑賞後にいろいろ調べたのですが、アイルランド移民は白人のなかでも最下層でした。アイルランドそのものがイギリスの植民地になった歴史があったためです。しかし、黒人よりは立場がうえ。差別されているものが、より差別されているものを叩くという、なんとも苦い構図になっています。物語にはお約束の悪役として、白人至上主義の過激派集団KKKがでてきますが、KKKが悪役の記号でしかないのに、レミックの言い分はそれなりに理屈があるのです。


 同時に、黒人音楽が白人によって商業化される歴史もなぞっています。レミックの提案は耳障りが良く、金銭的にはサミーやスモーク兄弟を潤わせるものでした。しかし、その代わり黒人としての魂、ソウルが代償になってしまいます。アメリカでは文化の盗用が問題になっていますが、まさにそのことをホラーとして取り上げているのが脚本も手掛けたクーグラー監督のすさまじさ。


 そして、後半はホラー映画となっていきます。ここでも、黒人の土着信仰であるフードゥーのシャーマンでもあるアニーが、レミックたちが吸血鬼であることを見抜き、その対策を矢継ぎ早に指示していく流れで、黒人文化へのリスペクトがたっぷりとあります。一方、レミックはヨーロッパ出身の吸血鬼のせいか、ニンニクに弱かったり、招かれなかったら建物に入れなかったりする弱点があります。また、吸血した相手も吸血鬼になるタイプなので、これまでなんで吸血鬼が蔓延しなかったのかというツッコミもいれたくなりますが、前半であれだけ固い絆で結ばれていた黒人たちが一人また一人と吸血鬼になっていく様子は、まさにアメリカ史の象徴といえるでしょう。そういえば、ある登場人物が首から十字架ぶらさげてたけど役に立った様子がなかったのはなぜだろう。


 バンパイアとのアクションはオーソドックスなもので、「ブラックパンサー」シリーズのクーグラー監督としては大人しい感じを受けました。しかし、これはあくまでもホラー映画の体裁はとっているとはいえ、本質的には黒人文化のアイデンティティを描きたいという監督の思いだったのかという気がします。そのへんがクライマックスのあとのエピローグ的な戦いがスカッとするものだったのとうまく対比できているかな。


 マイケル・B・ジョーダンが一人二役とは最後まで気づかずにびっくりしました。双子ながら性格の使い分けが一目でわかる高い演技力。クーグラー監督とのコンビはハリウッドでも最高クラスになっています。マイルズ・ケイトンは本作が映画デビューですが、童顔に低音と言う感じで、良いものも邪悪なものもひきつけるという設定を満足できる歌唱力には驚きました。ヘイリー・スタインフェルドがハーフの役柄というのもへー、という感じ。彼女は「ピッチパーフェクト2」というアカペラ(ルーツは教会音楽)映画が印象的だったので、起用されたのかな。なお、ミドルクレジットにはブルースの生きる伝説とされるバディ・ガイが登場し、名演奏を披露してくれます。
posted by 映画好きパパ at 06:11 | Comment(0) | 2025年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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