2026年04月04日

そして彼女たちは

 社会の弱者を一環として描いてきたダルデンヌ兄弟の新作。若い女性たちが受けるあまりの仕打ちに、僕はおっさんなのに途中から涙がとまりませんでしたが、彼らの作品にしては珍しく前向きなラストで、別の意味の涙が流れました。

 作品情報 2025年ベルギー映画 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ 出演:バベット・ファベーク、エルサ・ホーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン 上映時間104分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい  2026年劇場鑑賞129本



 【ストーリー】
 若くして妊娠した女性を支援するベルギーの施設。そこで暮らす5人の少女たちはそれぞれ悩みを抱えていた。ぺルラ(ルシー・ラリュエル)は、恋人のロバン(ギュンター・デュレット)が定職につかないため子供を産むことに不安を感じている。アリアンヌ(ジャナイナ・アロワ・フォカン)は実母のナタリー(クリステル・コルニル)がアルコール依存症で、やはり子供を育てることに自信がなく、養子に出そうかと迷っている。

 ジェシカ(バベット・ファベーク)は、自分が産む子供に愛情を持てるか自信がなかった。彼女も母親(インディア・エール)に幼いころ捨てられた体験があるためだ。ジュリー(エルサ・ホーベン)は彼氏のディラン(ジェフ・ジェイコブス)との関係は良好だが、2人とも麻薬中毒だったため仕事も家もなかなか見つからない。そうしたなか、ナイマ(サミア・イルミ)は夢だった鉄道会社への就職が決まり、シングルマザーとして生きていこうと決意する…

 【感想】
 ダルデンヌ兄弟の作品としては珍しく、群像劇となっています。5人のうちナイマは一番幸せだったせいかそれほど登場しませんが、残りの4人はほぼ均等にでてきます。それにしてもまだ10代の少女に対して、大人や赤ちゃんの父親、ひいては社会が冷たくひどいことをどうしてこれほど行うのか、観ていて胸が苦しくなりました。 

 10代でも女性は自分が母になる責任感から真剣に将来に立ち向かうのに、男性は遊んだ結果に責任を持たないやつもいることが平然と描かれます。特に男性そのものでなくてその母親が信じられないような暴言を吐くのには唖然とさせられました。女性同士で苦しみがわかるはずなのに、自分の息子をたぶらかしたかのようにしか扱わない。日本と文化が違うのかもしれませんけど、これはあまりにもひどかった。

 さらに、少女たちの中には親やそのパートナーから暴力的にも性的にも虐待を受けた経験がある人もいます。これも現実でもよくある話というのがなんとも悲しいけれど、子供にとって一番味方のはずの親が、一番の敵になるほど恐ろしいことはありません。大人としてこんなことが許されるはずがないのに、映画だけでなく現実にも存在する。観ているだけで絶望的になっていきます。親子の愛情がゆがんでしまったり、そもそも存在しなかったりすることが何と恐ろしいことか。

 それでも彼女たちはそれぞれ違ったやりかたで、前へ向かって歩いていこうとします。養子にだす、シングルマザーとして育てる、カップルとして新しい家族を作る。それぞれ自分が真剣に考えた結果であり、100%正解とはいえずに後悔することもあるだろうけど、歩き出す彼女たちを応援してやりたいとしみじみ思いました。

 それぞれドラマティックなエピソードとして描こうと思えばできるのに、ダルデンヌ兄弟は手持ちカメラで、まるでドキュメンタリーのように撮っていきます。しかし、彼らの過去作から考えて社会の弱者である少女たちがこのまま絶望的な事態に陥るのかずっと緊張感を持てて、ひたすら画面に食いついているうちに作品が終わりました。人生の大変さ、辛さを描く一方、楽しさ、そしてシングルマザー同士や施設の職員との絆という前向きな部分も描いている点が、ダルデンヌ作品としては異色といえましょう。

 バベット・ファベークとルシー・ラリュエル、サミア・イルミの3人は本作が映画初出演。他の2人も主役級はいないようです。それだけに演技はみんなナチュラル、リアルに観えました。日本でもこうした不幸な目に遭っている少女たちは存在します。少しでも彼女らに良いことがありますように。


posted by 映画好きパパ at 18:00 | Comment(0) | 2026年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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